長編2

□スキキライスキ
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嫌いなのにその性質は好ましいというロイの言動は、はっきり言っておかしかった。

エドワードなら嫌いな人間は、絶対に認めない。
好ましいなんて死んでも思わない。
例え良い所があったとしても、一寸一分たりとも見咎めたりしない。

エドワードは、ロイと自分は似た生き物だと思っていた。
だからこそロイのその言動は、彼女にしてみればおかしい以外の何物でも無かった。

(なんだ、こいつは。全然読めねぇ…!)

エドワードは煩悶するあまり、上手く頭が回らなかった。

睡眠不足も要因の一つかもしれないが、全くもって理解し難いロイの言動に、当惑させられたのも事実だった。

先程からロイとの応酬に身が入らず、ロイの言葉ばかりが浮いたように脳に響いた。

理解出来ない事が許せなくて悔しくて、エドワードは切歯腐心して、それを理解する為の必須事項を思案し始めた。


「聞いているのか、エドワード!」


エドワードが自分の殻に閉じ籠って、
ロイを看破する方法を思案し始めて暫く経過してから、ロイは彼女が自分の話を全くもって聞いていない事に気が付いた。

思わず声を荒げたロイに、エドワードははっと目を見開く。

そんな彼女にロイは若干眉を顰めて、


「聞いていなかったようだな…」
「考え事をしていました。それで、なんですか?」


悪びれる様子も見せず、謝る事すらなくけろりと応えたエドワードに、ロイは顔を引き攣らせながら優しい声音を発した。


「今日私が君に会いに来たのは、君に一つ提案があっての事なんだが。
 君は夜会にもいかず、家に閉じ籠っている訳だから、退屈だろう?
 私だって鬼では無い。君の暇を潰す為に本屋を専属で付けようと思うのだが。構わないかい?」
「…本屋……?」
「ああ。私もよく使用する書店なんだがね。中々良質の書物があって、君もきっと気に入ると思うよ…」


エドワードはロイの言葉に、体の良い見張りか…と胸中で溜息を吐いた。

ホークアイがあまりにも警戒されているものだから、
外部の者――それもエドワードが決して断らない上に締め出さないだろう本屋を索敵担当として送り込む事にしたのだろう。

しかし、これはこの家に入る当初から予測された事態の一つである。

彼の親友とも呼べる、とある貴族の四男坊が大恋愛の末に家を出て庶民と結婚し、書店を経営している事は調べが付いているのだ。

エドワードは自分が無類の本好きである事は自覚しており、それがばれるだろう事も視野に入れていた。

だから、その本屋がいつか送り込まれてくるだろう事は、予測された事態の一つだったのだ。


「本当ですか。有難う御座います。申し訳ありません、気を遣わせてしまって」


エドワードは迎え撃つ覚悟を決めて、ゆったりと微笑みを浮かべて、ロイに礼を述べた。

淡く微笑む彼女に、ロイは一瞬息を詰まらせた。



終.
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