長編2
□形に出来ない
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優しい微笑に、アルフォンスは「うん」と小さく頷いて、エドワードが読んでいた本をそっと返した。
「サンキュ」
「ううん。所で何で、マスタングさんの所の本屋には心理学書が注文出来ないの?」
「ちょっとな、実験するんだよ。持ち帰った本もすぐ読み終わるし、かと言って持ち運べる冊数は限られてるし。
だから、マスタングんとこの使用人とか、昨日話したホークアイさんとかの、
言動による心理分析とか、行動科学とか、観察しながら推察していたら暇潰せるかなと思って。
でも、そんな事してるってばれたら向こうも良い気はしないだろ?ばれる可能性は潰しとかないと」
あっけらかんとした口調で楽しそうに言いながら、
エドワードは再度心理学書に目を落とし、例えばな今日メイドがこれに該当する行動を…と解説し始めたので、
「姉さんって、本当に順応力あるよね。どんな境遇でも、楽しみ見付けちゃうんだもん」
アルフォンスは呆れたように肩を竦めた。
エドワードはそんな彼に、ふふんと不敵な笑みを浮かべて、それから自信満々に宣言した。
「オレがただ囚われの姫をする訳無いだろう」
「とっ…!似合わないね。実際、こんな所まで抜け出してきてるし」
くすくす笑うアルフォンスに、エドワードも無邪気に笑った。
本来なら貴族として等では無く、普通に和やかな生活を送りたかったエドワードは、何処までも幸せそうに微笑を浮かべる。
その様子を父親のような心地でホーエンハイムが見つめている事に気付く素振りも見せず、エドワードは床を笑い転げた。
「それで、囚われの姫としては、自分を取り巻く人間で暇潰しする為に、人間観察をする事にしたって事?」
アルフォンスはひぃひぃふぅふぅと深呼吸を繰り返し、
笑い狂って呼吸困難一歩手前だった息を落ち着かせると、肩を震わせつつ問い掛けた。
「全部が全部暇潰しって訳じゃないぜ。オレも認めたかないけど貴族の端くれだし、必要に駆られる事もあるから。
貴族の世界って魔の巣窟ってか、悪意とかに満ちてるからな。
だから一応、自分に向けられる感情の種類くらいは判別できるけど、細かい心理の機微までは分かんないんだよ。
ゲーム感覚でもそれが掴める手段が得られるなら、儲けもんだろ」
エドワードも同じように息を落ち着かせて、答えた。
「まあ、そうなのかもね。姉さんにとっては必要な事なのかも。じゃあボク、いくつかいい感じの心理学書選んで持ってくるね」
アルフォンスの申出に、エドワードはよろしく!と明るい声を上げた。
終.