長編2

□安息に向かえ
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「あら、エドワード君。そのコート、どうしたの?」


明らかに朝、このセントラルに到着した時には身に着けていなかった筈の黒いコートを纏ったエドワードに、偶然遭遇したホークアイは首を傾げた。

黒い、昔の彼女を思い出すようなフード付きのコート。
袖が余るらしく折り曲げられており、丈も床擦れ擦れという、『服に着られた』感が何とも可愛らしい。

微笑むホークアイに、エドワードはちょっと恥ずかしそうにしながら、


「トロイって髪からも感染するんだろ?オレのせいで感染者増やす訳にいかないから、准将が錬成してくれたんだ。
 だけどな〜、もうちょいマシな錬成できなかったのかよ。だぼだぼなんだけど」
「仕方ないだろう。それは元々私のコートなのだから、君の身の丈に余るのは当然じゃないか」


フードを錬成した分、丈が短くなっただけマシだと思うが?と呟くロイに、エドワードは勢いよく振り返り、


「誰が幼児サイズの服にすら着られるウルトラどチビか――!!」
「誰もそこまで言ってないじゃないか」


はっはっはっ、と笑いながらエドワードの頭をぐりぐり撫でるロイに、ホークアイが一瞬眉を顰めた。

今、エドワードに触れられるのは、ロイだけだ。
どんなに撫でたくても触れたくても、誰一人エドワードに触れる事は許されない。
死のリスクを伴うし、うっかり彼女経由で感染しようものなら、彼女はきっと責任を感じてしまう。

そうして、ロイの手を離して、自分が感染させてしまった人物の命を繋ごうとするだろう。
それは望ましい事では無かった。

彼女が消えるのも、他人の温もりに触れられず寂しい思いを味わうのも、嫌だと思う。
けれどその反面、唯一、可愛い子供に触れられるロイが、何だか妬ましかった。


「准将、あまりからかっては、エドワード君が可哀想です。ごめんなさいね、こんな人と四六時中一緒なんて、本当に大変よね」
「えっ、いや、確かに大変だけど。でも、仕方ないし」
「君達ね」


あんまりな二人の物言いに、ロイはがっくりと肩を落としつつ、抗議する。

そんなロイの姿に、ホークアイも少し溜飲が下がったのか、微笑を浮かべて、エドワードの肩に布越しに触れた。


「それじゃあ、エドワード君。大変だと思うけど、暫くの間うちの無能准将をよろしくね。
 何かあったらすぐ教えて。いつでも准将を撃ち抜く準備は整えておくから」


茶目っけを交えてウィンクすると、エドワードがへら…っと、表情を緩めた。

死に病を患っているというのに相変わらずの強い精神を保ち続け、笑みを浮かべる余裕すらあるエドワードに、ホークアイも破顔する。
それにロイが頬を引き攣らせた。


「た、大尉、君ね…!」
「うん、有難う、ホークアイ大尉。そうさせてもらうよ」
「は、鋼の!?」


エドワードはぎょっと目を剥くロイの手を強引に引っ張って、すたすたと出口へ向かっていく。

ロイはエドワードとホークアイの掛け合いに心底疲れたらしく、盛大な溜息を吐いた後、エドワードの歩調に合わせて歩きだした。
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