長編2

□言葉にならない、愛と憎
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そして今、突然親友に呼び出されて、
「エルリックのご令嬢と婚約した。現在一緒に住んでいる。どうやら読書好きのようなので適当に書物を見繕ってくれ」と告げられて、
ヒューズは2年前のように目を真ん丸くして、思わず聞き返した。


「エルリックのご令嬢って、エドワード・エルリックか?」
「ああ。中々懐かなくて困っているんだが、取り敢えず餌でも与えてみようかと思ってな。
 何だか頗る頭が良いらしいから、下手な物は避けてくれ。あとは――」
「なあ。…………エドワード・エルリックって、確か12歳だよな?」
「いや、13歳だ」
「どっちにしても、やばいだろう!お前、俺と同い年だろ!27だろ!なのに婚約者は13って!」


顔面を蒼白にするヒューズに、ロイは何でも無い事のように、口を開いた。


「この世界では、往々にしてある事だ」
「そうだけどよ、お前…!」


貴族の中ではよくある話であるが、しかし身近で、しかも親友がそのような状況に晒されていると明言されれば、誰だって驚く筈だ。
そう主張するヒューズに、ロイは「まあ、確かにな…」と頷いた。
その適当な返答に、ヒューズは思わず眉を顰めた。

長い付き合いから、ロイがその婚約を破棄する気が無い事はありありと伝わってきた。
加えて、件のエドワード・エルリックに対して何某かの感情を持ち合わせていない事も感じ取れた。

愛の為に家を捨てた、現在進行形で愛に生きている男の代表としては、そのような結婚を認める訳にはいかない。
何せロイは親友であるし、相手の少女は愛する妻が可愛いいい子だと気に入っているらしいエドワード・エルリックである。


「お前、その子に情を抱けないなら、婚約なんて破棄しろ」
「何故。目的の為には、エルリック家と手を結んだ方が、都合が良いのに」
「お前の目指しているものは知っているし、応援もしているが、愛の無い結婚なんて俺は認めんぞ。
 第一、相手は13歳の子供だろう?初恋もまだかもしれない子供に政略結婚を突き付けるのは、可哀想じゃ…」
「現物を前にしたら可哀想なんて感情は湧かなくなるさ」
「げんぶっ…相手は女の子だぞ!そんな言い方をする奴があるか!」


ヒューズの言葉に、ロイは一切耳を貸さない。
それどころか如何にも面倒くさそうな表情で、「要件は済んだ。明日から頼むぞ」と言い捨てて、曲りなりにも親友である彼を放りだしたのだ。


「くそっ、馬鹿野郎め」


それでも一応、愛情など一切無い婚約を受け入れざるを得ない幼い少女の為に、
ヒューズは駆けずり回って難解な書物を掻き集めた。

グレイシアに「可愛い良い子」と言わしめる少女に対する憐れみと、
どんな少女だろうという好奇心を抱きながら、翌朝、ヒューズは溜息交じりに親友の館を訪れたのだった。



終.
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