長編2

□土足で踏み入る人
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「お兄ちゃーん」


逃げられないよう肩を掴まれ、強引に会話を広げようとする男に辟易していると、突如こちらに向かってくる声と足音が聞こえてきた。


「どうした、キョーコ!?」


男は綱吉と至近距離であるにも拘らず、大声を発して妹と思しき声に応える。
綱吉はその声量に眩暈を来しながらも、覚えのある名前と声に、恐る恐る振り返った。

やって来たのは、男の物と思しき鞄を抱えて、とたとたと一生懸命走って来る憧れの少女、笹川京子だった。


「も――、カバン道におっことしてたよ!」


兄を心配しているらしいその表情は相変わらずの愛くるしさで、
目の前のガサツな印象の男と血の繋がりがあるなんて、どうしたって信じられない。

信じられないけれど、それが真実だという事は勘に頼らずとも、二人の纏う空気だとか会話のテンポだとかで伝わって来る。

綱吉は驚愕しながらも、二人の掛け合いを眺めていた。


「ツナ君」


半ば呆然としながら二人を眺めていると、京子が困ったような笑みを浮かべながら、綱吉に話を振って来た。

唐突な声掛けに、はっと京子に視線をやる。
京子は如何にも申し訳無さそうな声で、言った。


「お兄ちゃんのボクシング談義なんか聞き流していいからね」
「ボクシング…?」


そういえば、部活勧誘されてたっけ。

我が部に入れ、という言葉を、京子と兄妹関係にあるという衝撃が凌駕して、一瞬すっかり忘れていた。
成程彼はボクシング部だったのか、と男に視線をやれば、
男は自己紹介を未だ為していない事に気が付いたらしく、くわっと目を見開いて叫んだ。


「オレはボクシング部主将、笹川了平だ!!座右の銘は“極限”!!」


綱吉の(裏の)幼馴染である雲雀は常に沈着冷静で冷淡な少年であるし、
綱吉自身も多少突っ込み気質であるかもしれないが、平静な面の多い人種である。
最近仲良くなった友人二人も不良君と爽やか君で、こんなにも熱く物事を語る人間では無い。

かつて目にした事の無いその熱さに、綱吉は思わず固まった。

思わず思考と行動を停止した綱吉に何を思ったのか、男――笹川了平は、がっしりと綱吉の肩を掴んで、


「お前を部に歓迎するぞ、沢田ツナ!」


まるで拒否権など無いかのように、そう力強く断言した。
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