長編2

□土足で踏み入る人
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綱吉は男として育ってきてはいるものの、正真正銘の女の子である。
父親の家の事情で戸籍上は男として育てられたが、
心も体も健やかに、女として育ってきてはいるので、人前で上半身を晒す心算なんてさらさら無い。

恥ずかしいし、それ以前に性別がばれてしまうからだ。

だから、放課後、どうにかして断ろうとボクシング部を訪れた綱吉は、あの熱い男をどのようにして説得しようかと頭を抱えて悩んだ。


「おお、沢田。まってたぞ!」
「わっ!」


部室の入り口で苦悩する綱吉の気配に気付いたのか、突如了平がガラッと扉を開けて姿を現し、彼女を室内に引っ張り込んだ。

ダメツナらしくびくびくと震え、青褪めながら、綱吉は了平を窺う。

了平は薄い笑みを浮かべながら、


「お前の評判をききつけて、タイからムエタイの長老までかけつけているぞ。パオパオ老師だ」


と言って、おかしな変装をしているリボーンを指差した。

リボーンは紹介されるや否や、パオーン!と高らかに鳴いて、ファイティングポーズを取った。

(てんめ――!!!)

綱吉は全力でリボーンを睨み付けて、彼を威嚇する。

しかしダメツナ仕様の怒りじゃリボーンが引く筈も無く、彼は常通りの淡々とした口調で、次の言葉を言い放った。


「オレは新入部員と主将のガチンコ勝負が見たいぞ」


その言葉に、綱吉は本格的に慌てた。

制服のままボクシングをするなんて、在り得ない。激しくボクシングを愛しているらしい了平も、それを許さないだろう。
周囲の部員のようにTシャツを着用できるなら良いが、死ぬ気弾をうたれたら、晒し一枚になってしまう。
それは、全くもって、望ましくない。回避しなければならない未来だ。

リボーンだって、オレの性別を晒す事にまだGOサインを出す筈が無いのに!と、慌ててリボーンを見上げ、綱吉は必死に叫んだ。


「おまえオレに、ボクシングやらす気か!?」
「あたりまえだ。ちった――強くなりやがれ」


決死の思いで発した言葉に、リボーンは特に表情を変える事無く、淡々と答えた。

どうやら性別云々よりも、ちっとも強くならないダメツナに痺れを切らし始めている頃らしい。

(馬鹿かお前、ダメツナだぞ。長期戦覚悟で行けよ。こちとらまだ素を晒す気も性別晒す気も無いんだよ)

読心術が効かない程の、心の奥の奥の方で、綱吉は唾棄する思いでぼやいた。
しかし、そんな彼女の意思など無視して、物事は進んで行った。


「ゆくぞ、沢田ツナ!!加減などせんからな!!」


いつの間にかやって来ていた獄寺、山本、京子の応援を背に、リボーンの策略と流れにのまれるようにして、
了平とスパーリングをする事になってしまった綱吉は(オレ、何やってんだ…)と自己嫌悪に陥りながらも、渋々ファイティングポーズを取った。

取り敢えず、今回は何があっても死ぬ気弾は回避しなければならない。

普段なら騒ぎのどさくさで見逃される胸元を覆う晒しも、
このような場所で目に留められては「怪我をしているのか!?」と悪目立ちしてしまう恐れがある。
剥かれたら一巻の終わりだ。取り敢えず何においても一瞬で、了平を倒さなければならない。

偶然転んでクリーンヒットの奇跡を、どのようにして演出しようかと悩んでいると、
唐突に、何の前触れも無く、カ――ンと試合開始のゴングがなった。
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