長編2

□親友の婚約者
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彼女の母親であるエルリック夫人は、胎内に3か月と命を宿せない体だったのだ。
胎児は生まれる前に流れてしまう、命を生み出す事が出来ない筈の肉体から、
どうした事か、エドワード・エルリックが生まれてしまったというのだ。

奇跡の子供なのだろうと片付けられるかもしれないが、しかし、何故かそれが胸に引っ掛かって、凝った疑問が蟠ってならない。

貴族でなくなったヒューズでは、金も人も動かせず、調査には限界があった。

しかし、本人の許諾なく勝手に調べてしまった挙句に、もしかしたら重大かもしれない秘密を調査させるのは、ヒューズの至情が許さない。
加えて、ロイがエドワードに興味を持って、自分の意思で彼女の事情を調べなければ何の意味も無いような気がした。


「ロイとは気が合いそうな気がするんだけどなぁ。あいつ、絶対固定観念だけで酷ェ態度取ってるよなぁ」


ロイがエドワードと仲良くなっていれば、ヒューズの彼女に対する同情に似た憂慮も解消されるし、疑問も問う事が出来る。

彼女の生まれた意味を否定する心算は無いが、疑問を疑問のままにしておくのは気持が悪いのでどうにかしてしまいたかった。


「まあ、俺でどうにか出来るんなら、苦労は無いよな。結局は本人達の事だし、昨日の様子からして、ロイの奴、聞く耳持たないだろうし」


あ〜あ、と零しながら、ヒューズは漸く行き着いたロイの部屋と廊下とを仕切る扉の前に立ち、
両手が塞がっている為行儀悪くも足で彼の部屋をノックした。


「お〜い。ロイ〜、開けろ〜!」


ガンガンと断続的に扉を蹴っていると、突然、


「おい、人の部屋の扉をそんな無遠慮に蹴る奴があるか」


部屋の中に居る筈の、親友ロイ・マスタングの声が、何故か廊下に響いた。
驚いて振り返れば、明らかに『朝帰りです』といった風体のロイが、欠伸を噛み殺した様子で突っ立っていた。

パーティー用と思しきイブニングコートに身を包んでおり、首筋にはキスマークが窺える。

明らかに『婚約者がいるというのに不貞を働いてきました』という様相に、
ヒューズは可愛い娘を持つ父親の一人として、怒りに顔を引き攣らせた。


「ロイ。お前、まさか婚約者を放って、夜会なんかに顔出して、あまつさえ女を食ってきたとは言わないよな…?」


確実にそうだと分かっていても、否定したい一心で、ヒューズはロイに問い掛けた。

ロイはきょとんとした表情で、首を傾げて、その問いに答えた。


「そうだと言ったら、どうなんだ?」
「お前…っ、お前って奴は…!少しはエドワード嬢の事も考えろよ!
 愛してもくれない男と婚約させられて、慣れない場所に突然放り込まれて、たった13の子供が…!
 ………せめてもう少し優しくするくらい、お前なら出来るだろうが!?」


いつものように上手に仮面を嵌めて、嘘でも良いから優しくしてやれと言い差せば、ロイはくっと喉奥で笑った。
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