長編2
□誰にでも愛される人
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「久しぶりに世のためになる殺しをしたわ」
二階でポイズンクッキングを炸裂させ、
男を階段下に突き落としたらしいビアンキが心底不快そうな表情で男を見下ろしながら、ゆっくりと階段を降りてきた。
その不機嫌な表情を目にして、また『リボーンを解放する為』という名目の元に八当たりされるのではと顔を引き攣らせる綱吉の足元で、
「相変わらずのおてんばだなぁ、やっぱ女の子はそーでなくっちゃ〜っ」
と言いながら、間抜けな格好で床に転がっていた筈の男が、ポイズンクッキングの影響を微塵も感じさせない表情で立ちあがった。
彼は立ち上がった勢いそのままに、ビアンキの方に飛び上り、ぶちゅっとキスをかます。
先程殺されそうになった女に、何の怯えも嫌悪も無くそんな事をした奇妙な男に呆然とする綱吉の前で、
ビアンキは怒りに顔を引き攣らせて回し蹴りを披露してくれた。
男は再度吹っ飛ばされ、床に転がった。
「な…何だ、この不法侵入者は…………」
常軌を逸した光景に固まった綱吉は、思わずと言った調子でそう零した。
その呟きに、いつの間にか横に居たリボーンが答えをくれた。
「さっき話したドクターだぞ。イタリアから呼んどいてやったぞ、Dr.シャマルだ。見ての通り、女好きのキス魔だ」
そんな会話をしている間にも、シャマルという医者は再度起き上り、果敢にもビアンキに飛び掛かっていく。
恐ろしい執念を持った、女好きらしい。
こんな人間に不治の病が治せるなどとどうにも思えなくて、綱吉は不安に青褪める。
そんな綱吉を無視して、リボーンはシャマルに声を掛けた。
「シャマル、こいつがドクロ病にかかったツナだ」
その言葉に、シャマルはビアンキを追い回すのを中断して、のっそりと振り返った。
彼と目が合った瞬間、ぞわりと訳の分からない悪寒が走った。
しかし、それの明確な意味が分からなくてじっと佇んでいると、
ゆったりとした足取りで綱吉の元にやって来たシャマルは和やかな笑顔を浮かべて言った。
「いや――、悪いね。ついつい周りが見えなくなりがちな性格でね。どれどれ」
「ど…どーも…」
脳内に響く警鐘は、今まで感じた事の無い危機を知らせていて、その内容が把握出来ない。
対処方法も分からない事で迂闊な行動をしては、ダメツナとリボーンの関係に齟齬を来しかねないので、やはり何をする訳にもいかない。
伸びてくるシャマルの手に、言い知れない恐怖を感じるが、その恐怖の種類を測れずに棒立ちしていると、
「失礼」
ピタと胸元に手が当てられた。
「ふんふん…」
そのまま、あるかないかというささやかな胸をふにっと揉まれて、
我を失くした綱吉は思わず、ビアンキ以上の高速で回し蹴りを炸裂させてしまった。