長編2

□有無を言わさぬ決定事項
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「今日のは、読んだ事の無い本ばかりです。それに、全部面白そう」


一応そのような事を言っておかないと、あの場に居た事が分かってしまうかもしれないと、エドワードは感激したような声を上げた。

事実、面白そうな本にはそそられたし、弾んだ気持ちに嘘は無い。
ホーエンハイムの精選した書物は相変わらず文句の付け様が無く、エドワードの知識欲を刺激した。
だからか、鋭そうに見えるヒューズだがエドワードの演技に気付いた様子は無く、満足したように頷いている。

(一冊一冊に妥協が見えない。流石だぜ、親父)

数を稼ぐ為の適当な物が見当たらない事に期待が膨らみ、浮き浮きと本を開き裏の無い笑みを浮かべると、
ヒューズは「そうか、良かった」と嬉しそうな声を上げた。


「いや、実はな。ホーエンハイムさんに、本の選別を手伝って貰ったんだ。お前さんが懇意にしてた書店なんだろ?」


あっさりと自分の実力じゃない事を明かしたヒューズに、エドワードは彼の株が上がっていくのを感じた。

やはり、彼はこちら側に引き入れられるかもしれない――と、
心の中で彼の人間性を計りながら、僅かに『貴族の令嬢らしさ』を取り払ったエドワード・エルリックを覗かせてみる。


「ホーエンハイムさんに!そうですか、懐かしいな…。アルフォンス君は元気でしたか?」


エドワードが意図的に切り替えた、感情の乗った瞳に、ヒューズは以前それを目撃した時と同様に一瞬目を丸くして、次いで笑みを浮かべた。


「いや、夜遅くだったからな。ご子息には会えなかったんだ。次はちゃんと子供も起きてるような時間に、窺ってみるさ」
「そんな、そこまでしていただかなくても。こうして、ほんの僅かでも、ホーエンハイムさんと関わりを持てるだけでも、嬉しいです。
 私は二人に何も言えないまま、この家に連れて来られたので、二人に心配を掛けてないかとても不安だったんです。
 せめて、無事が伝えられて良かったです」


館を抜け出すようになる以前に懸念していた事をそのまま言葉にすれば、ヒューズは憐れむように表情を歪めて、エドワードを見つめた。

エドワードはその、憐れみの視線の中にヒューズが己に向ける慈愛にも似た感情を見つけて、緩く笑みを浮かべた。

如何にもエドワードの現状に納得していないという風なその態度に、まだ少ない情報量の中でヒューズに、
『エドワード・エルリック』の全てを伝える訳にはいかないけれど、少しずつ仲間に引き入れるよう駆け引きしていこうと、彼女は決めた。


終.
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