長編2

□背中合わせの幸不幸
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獄寺は信頼と尊敬で構成された光の宿ったきらきらした瞳を綱吉に向けて、無邪気に笑って言った。


「棒倒しに体力温存スよね」


オレは分かってました、と言わんばかりにウィンクする獄寺に引き攣った表情を向けるしかない綱吉は、
呆れたように、一応適当な否定の言葉を掛けようと恐る恐る口を開いた。


「いや、あのね――」
「バカモノ!!」


しかし、獄寺君がダメツナへの信奉を止めるよう誘導できればいいな――という下心と共に、
適当な言葉を吐きだそうとした綱吉の言葉が獄寺の耳に届く前に、彼女の声は大音量の声に掻き消された。

同じく綱吉を迎えにきたらしい、了平の声だった。
彼は「全力でやらんか」と説教を零し、猛烈な勢いで吠える。
それに困惑する綱吉に代わって、獄寺が「うっせーぞ」と了平に怒鳴りつけた。

何だか雲行きが怪しくなってきたので、どうにか止めようと引き攣った悲鳴を上げるが、時既に遅し。二人は盛大に殴り合い、共に撃沈した。

そんな二人のやり取りを目の当たりにして頭を抱えた綱吉の背後に、「ヒョホホホ!」と品の無い笑い声を上げる男が現れた。
振り返れば、C組総大将の高田がこちらを完璧に下に見ているとい視線で、にやけたムカつく笑顔を披露していた。


「棒倒しはチームワークがモノをいうんだよ~~。こりゃ、A組恐るるに足らないね~~~~~!」


これでもかと言うくらい声を張り上げて、彼はそう告げる。恐らく、C組内の指揮を上げたいが為の言葉だろう。
綱吉は別段そのにやけ顔にも言動にも大した感慨を抱かないが、
勝負と言う物に拘る性質らしい獄寺と了平は、今し方まで声を荒げる程に興奮していた為か、大いに苛立ちを覚えたらしい。

勢いよくC組総大将を振り返り、


「余計なお世話だ!!」
「なんだ、テメーは?」
「「すっこんでろ!!」」


二人仲良く彼を叩きのめしてしまった。

おお、二人とも息合ってるのなー。チームワークばっちりだな。こりゃ、棒倒しいけんじゃねーか?

あははと笑いながらこちらに向かっている山本の声が、微かに綱吉の耳に届いた。
その吃驚する程おおらかな言動を耳にして、心の中で(笑い事じゃないよ、やばいよ。競技前に大将伸しちゃったよ)と慌てふためく。


「オレ達の総大将に何てことしやがる!」


案の定周囲を囲むC組の連中が怒声を張り上げるが、何を思ったか獄寺と了平は、あえて火に油を注ぐような言動を吐いた。
それとほぼ同時にB組総大将まで何者かにやられたという知らせが入り、いよいよもって、体育祭に波乱の空気が立ち込め始めた。

(ああっ…何で競技後すぐにここを離れなかったんだ、オレ!
 熱が何だよ、眩暈が何だよ!この状況に晒されるくらいなら、多少無理した方が良かったよ!)

直前になるまで二人の行動の結果を知らせなかった、大分鈍っているらしい直感と思考能力から、
思った以上に熱にヤラれている自分に気が付いて、綱吉は些かの不安を覚えた。

(オレ、今日を無事に乗り切れるかな…)

綱吉は、己の勘に懸命に問い掛けてみる。今は、それしか手が無かった。

今までも、かなり精度の高い直感力によって、この大変で困難で面倒臭い生活を守って来たのだ。
恐らくリボーンが来てからこっちの疲労の蓄積と熱症状により発生した不調だと思われるが、現在の状況で、思考と直感が働かないのは厄介である。

それでも、些細な事くらいは分かるだろうと、無理矢理感覚を研ぎ澄ませてみるが、

(駄目だ、それすら分からない…。いつもなら何となく、分かるのに)

泣きながら頭を抱える綱吉に何を思ったのか、雲雀は彼女にばれないようにひっそりと、実行委員のブースへと歩み寄っていく。

その直後、棒倒しの審議と昼休憩を知らせる放送が、スピーカーから発せられた。
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