長編2

□不言実行
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翌日、アルフォンスが元気だったという旨を報告すると、エドワードは「そうですか」と子供らしく弾んだ声と表情で、喜びを表した。

これまで警戒心たっぷりの作り笑顔と態度ばかりのエドワードの、恐らく素であろうその様子に、ヒューズは心が和むのを感じた。

厳しい状況に置かれた彼女の心境を思うと、いつだって物悲しい気持ちでいっぱいになるのだが、
自分が彼女の特別な人間との架け橋になる事で、彼女が本来の自分を取り戻してくれると思うと、酷く嬉しくなる。

また、エドワードの様子を伝えると、ホーエンハイムもアルフォンスも喜んでくれた。

徐々にエドワードともホーエンハイム家とも打ち解けてきた頃、ヒューズは思い切って、エドワードとアルフォンスの関係について問い掛けてみた。

ホーエンハイムは、ヒューズが二人は恋仲にあるのではないかという疑念を抱いていると気付くと、盛大に笑い飛ばして、言った。


「あの子達は、互いを姉弟のように思っているんですよ。歳も近いし、思考等も近いですから」


姉弟、と言われて、ヒューズは成程…と妙な納得を覚えた。

金髪金眼の少年少女は、身分こそ違うが、とてもよく似通っていた。
容姿の特徴も然る事ながら、その大人びた思考も、話していて分かる類稀なる頭脳も。

(もしも二人が恋人同士ってんなら、何をしてもロイにあの子から手を引かそうと思ったんだが)

愛に生きる男であるヒューズは、小さな恋人達の為に何でもしてやろうと言う気でいたのだが、
どうやらそうではないと知って、何故だか僅かに安堵する。

頑なにエドワードとの婚約に拘るロイを説得するのは骨が折れるからな…と頭の片隅で思いながら、
ヒューズはエドワードとは姉弟の絆に類似したもので繋がっているらしいアルフォンスを見遣った。

(身分や立場を考えないタイプには見えないんだけどな、余程エドワード嬢と馬が合ったのか)

するとヒューズの思考を読んだように、ホーエンハイムが口を開いた。


「エドワード様は、立場上家の中に篭り切りで、同年代の子と関わる機会がありませんから。
 その孤独な魂を、アルフォンスは感じ取ったのかもしれません。
 親馬鹿と思われるかもしれませんが、アルフォンスは本当に、優しい子なんです」
「そんな事ありません。話していれば分かりますよ、アルフォンス君が利発で、とても優しい子だというのは」


それからエリシアの事を思い出して、思わず口をついて出るようにして、わが子の話がこぼれでる。

最初エリシアの話をしだした時は驚いたような顔をしていたホーエンハイムだが、今では呆れたような反応を返す事が多くなっていた。
しかし今、この時だけは、何故かほっと安堵したような表情を浮かべていた。

エリシアの話をするのに夢中なヒューズは、しかしそれに一切気付かなかった。

(そうだ、今度、エリシアを会わせてみよう。
 知らない大人ばかりの場所に放り込まれた孤独感なんて、エリシアのエンジェルスマイルの前には吹き飛んでしまうだろうからな!)


ヒューズは孤独に苛まれ、本だけを心の拠り所にしているのだろう美しくて可哀想な少女の為にと、そんな計画を立てた。



終.
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