長編2
□鳩と蛇
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「ヒューズさん、この子は?」
エドワードはエリシアを差して、ヒューズに問い掛けた。
すると彼は、えへんと自慢げに胸を張って、答えた。
「俺の娘だ。どうだ、可愛いだろう!」
エドワードは「え」と固まって、エリシアとヒューズを見比べた。
ぶっちゃけた話、全然似ていない。信じられない。
ヒューズは黒髪だし、髭面だし、眼鏡だし、エドワードが今まで見て来た誰よりもごつい。
黒髪――という事以外は、性別や年齢等といった様々な要因から来る事実だが、
それが分かっていても、何故か妙にヒューズとエリシアの血の繋がりを見出す事が出来ない。
けれど、そんな嘘を吐く意味がないので、正真正銘彼女はヒューズの子なのだろう。
エドワードは遺伝子の神秘を感じながら、何処か達観したような瞳を浮かべて、エリシアに囁いた。
「エリシアちゃん、お母さんに似て良かったね。本当に。グレイシアさんは、凄い美人だもん」
頭を撫でれば、エリシアは擽ったそうにはにかむ。
エドワードは再度きゅん!と胸を高鳴らせながら、同じようにはにかんでみせた。
そんな女の子二人の頭上で、ヒューズはぐっと拳を握り、力強く弁舌してみせる。
「そうだろう、そうだろう。俺の妻と娘はもう、人智を超えた美しさだよな!?何て言うか、生きた宝石!?妖精!?天使!?女神!?
俺の貧相な頭じゃありきたりなのしか思いつかん!エドワード嬢、何か思いつかんか、その天才的な頭脳で!」
「は!?」
突然の無茶振りにぎょっと目を剥くエドワードに、ヒューズはずずいっと顔面を寄せ、わくわくした様子で瞳を輝かせる。
エドワードはひきつった表情で、お手上げのポーズをしてみせた。ヒューズは詰まらなそうに唇を尖らせて、ちぇー、と声を漏らす。
しかし、それ以上強引に押してくる事は無かったので、エドワードはほっと息を吐いた。
が、次の瞬間、ばっとヒューズの方に顔を上げ、焦った表情を浮かべた。
「ああ、大丈夫だ。俺は、お前が一時期市井で庶民に交じって生活していた事を知ってる。そして、それをロイに言う気は無い」
急に表情の強張ったエドワードに、ヒューズは理由を察して、安心するように優しく囁いた。
ヒューズが柔らかく放った言葉に、エドワードは一瞬目を見開いて、それから徐に推し量るような疑念の篭った光を瞳に宿らせた。