長編2

□王様達と家来
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数日後、赤ん坊の奇妙な監視にそろそろ風紀委員を動かそうと、
応接室に詰めて仕事を片付けている雲雀の元に向かってくる、奇妙な4つの気配があった。

その内一つがよく知っているものだったので、雲雀は溜息交じりに執務椅子から身を起し、入口の方へと向かう。

(例の赤ん坊が先導しているのか。また、綱吉を使って騒動を起こす気だね…)

自分と関わった人間をマフィアにしようとする節があるから、暫くは何があってもオレに絡まないようにしてくれ…、
と必死に訴えてきた綱吉を思い出して、雲雀は自分が完全に目を付けられてしまった事を知った。

恐らく綱吉も、赤ん坊に応接室に向かうよう言われた際に全てを悟っただろう。

綱吉の気持ちを考えれば、偶然を装って部屋を空にし、下手な接触を持たないようにするべきだ。
しかしこの場所に、綱吉だけならまだしも、彼女にくっ付いているその他2人の男も入室するとなると、ひどく不快である。

応接室はずっと、雲雀と綱吉の憩いの場だったので、それ以外の人間に侵入されるなんて許容できない事態だった。

綱吉の気持ちを優先して部屋を出て行こうとした雲雀は、ふと足をとめて、ソファの背凭れ部分に腰かけた。

ここで待ち受けていれば、入口真正面に立つ人間に雲雀の姿が目に入る事になる。
そこで引くならそれでよし。引かないなら一歩踏み入れられる前に、咬み殺してしまえばいい。

綱吉以外の二人を迎え撃つ気満々に、雲雀は瞳を閉じた。

(今頃、応接室から動かない僕に焦っているんだろうな…)

何も知らないふりをして友人と話をしながらも、内心で慌てふためく綱吉の姿を想像して、雲雀は薄らと微笑した。

こつこつと、着実に4つの足音は近付いてくる。

4つの足音は一寸の乱れも無く一定の速度を保っていたが、
応接室が視認できる位置に差し掛かり赤ん坊の誘導が必要無くなった頃に、2つ分の足音が遅れだした。

足音の重さや歩き方の癖などからそれが綱吉と赤ん坊であると推測した雲雀は、ふ…と苦笑を浮かべた。

(全く、諦めが悪いね)

恐らく綱吉が応接室に行くのをどうにかして止めようと、赤ん坊を説得しているのだろうと考えて、その往生際の悪さに呆れを禁じえない。
しかしそれが、自分をマフィアの世界に巻き込まない為という彼女の気遣いだと思うと、嬉しく感じてしまうのも事実だった。

(ああ、もう、到着したみたいだ)

部屋の前に、綱吉に懐き、近頃彼女を取り巻いている男二人の気配が差し掛かったのを確認して、雲雀は僅かに体勢を整えた。
すぐにでも隠し持っているトンファーに手を掛けられる、まさしく臨戦態勢だ。

しかし、雲雀の敵意を扉一枚隔てただけで感じ取る事すら出来ない非力な草食動物二匹は、
悠々とした調子でその、噎せ返る程に獰猛な気配でいっぱいな部屋と廊下を隔てる扉を開け放った。
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