長編2

□王様達と家来
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「へ〜〜〜、こんないい部屋があるとはね―――」


能天気な声を発しながら己の縄張(テリトリー)に侵入してきた山本に視線を向けると、彼は僅かに息を詰まらせた。


「君、誰?」


問い掛けてみるが、彼は答えず、冷や汗を流しながら焦ったような表情を浮かべていた。
どうやら自分の事を知っているらしい…と、雲雀は微笑しながら、視線だけでなく体ごと山本に向かい合う。

すると、その奥に居る、煙草をふかしている獄寺が目に入った。


「風紀委員長の前では、タバコ消してくれる?」


綱吉の家庭教師の赤ん坊の目論見通りになるのは癪なので、
本当ならさっさと引いてくれれば見逃してやる心算で居たけれど、獄寺が煙草を吸っている姿を目にした途端、我慢できなくなった。

部下からの報告は聞いていたし、彼がヘビースモーカーである事は認識していたけれど、見るのと聞くのとでは、実際に胸の奥に生じる不快度が全然違う。

(綱吉が君の出す煙で肺がんにでもなったらどうしてくれるの)

右腕右腕と騒ぐ彼が、常に綱吉の傍らに居ようとするのを草壁から聞いており、
何れどうにかしようと思っていた雲雀は、ぶつりと我慢の糸が切れるのを感じた。


「ま、どちらにせよ、ただでは帰さないけど」
「!! んだと、てめ――」


ソファから離れ、ゆったりとした歩調で二人の方に歩み寄れば、獄寺が逆上したらしく声を荒げて掴みかかって来た。
しかし、獄寺の間合いに届くよりも早く、雲雀はその実力差を見せ付けるようにして、目にもとまらぬ速さで彼の煙草を折ってやった。

そこで漸く、雲雀と己との実力差を認識したらしい獄寺が距離を取り、焦ったように声を上ずらせる。

雲雀はその無様な草食動物っぷりを眺めながら、すぅ…っと瞳を尖らせた。


「僕は、弱くて群れる草食動物が嫌いだ。視界に入ると、咬み殺したくなる」


あからさまな殺意に青褪めた二人は、
後ろから漸く追いついてきた綱吉に気が付いていないらしく、着実にこちらへと歩を進める彼女を止めようともしない。

どうやら彼女は、雲雀との関係を悟らせない為に一度殴られる事を覚悟しているらしく、何も気付かない様子で――しかし、
視線だけで雲雀に「上手く対処してくれと」訴えて、応接室に一歩を踏み入れた。


「はじめて入るよ、応接室なんて」


不穏な空気に気付かないダメツナを装って、
するりと二人の間をすり抜けながら目配せする綱吉に、雲雀は仕方ないなあ…と言わんばかりに、トンファーを振り上げた。


「1匹」


パッと見容赦ない攻撃を仕掛けたように見える一撃を放ちながら、
どうでもいい人間を叩きのめしているかのように抑揚の無い声で、小さくカウントする。

軽く脳を揺らし、ほんの一瞬意識を飛ばす程度の攻撃を仕掛けたのだが、
ダメツナ演技に長けた彼女はそれだけでは足りないと言わんばかりに、
盛大に吹っ飛んだように見せ掛けるべく、タイミングよく地面を蹴って無様に床に倒れ伏した。
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