長編2

□臆病なライオン2
2ページ/8ページ

家に帰ると、心配そうに帰宅した綱吉に声を掛けようとする奈々と、
そんな奈々を諫めて「いい加減反省したか」と綱吉を責めるように言い、謝罪を強要しようとするリボーンが待っていた。

綱吉が嵌められてから奈々は、傷だらけの綱吉を心配そうにして見ている。
しかし綱吉の怪我は自業自得なのだと声高に主張するリボーンの所為で、現状確認が出来ないままだった。

奈々は、綱吉がエレノアを暴行したという噂を知らない。
自分を襲った人間の家に行く訳が無いという辻褄合わせの為か、嵌められて以降エレノアは沢田家に来ない事に加えて、
子供が罪を犯した事を心優しい奈々に知らせたくないのか、リボーンは奈々の問い掛けをのらりくらりとかわすだけで、
自業自得の言葉を使用してもその概要を述べようとはしないからだ。

だから綱吉の無実を確実に認識出来る奈々は、何もしない。知らないのだから何も出来ない。
綱吉も本当なら自分の現状を伝えたいのだが、家族との会話は、罪を認めない嘘付き少年と綱吉を認識しているリボーンによって常に阻まれている。

何も知らない奈々と、伝えたくても伝えられない綱吉と、綱吉を責め立てるリボーン。
今や沢田家の空気は不穏な物になっており、以前の明るさは無い。

エレノアが壊したのは、綱吉を取り巻いていた絆、守護者達の人間性だけじゃない。温かくて優しい、沢田家の平穏までも諸共に壊してしまったのだ。

完全なる一般人の奈々だって、訳が分からないまま苦しんでいる。その事実がひどく悲しかった。


「俺、着替えてくる」
「ツナ!!」


リボーンが奈々達を慮ってか遠回しに、けれどそれと認識出来るように罵詈雑言をぶつけてくる。
綱吉はそんなリボーンに一瞬悲しみと諦念を含ませた視線を向けて、ぱたんと扉を閉めた。

着替え中リボーンは、綱吉の部屋に入って来ない。
綱吉の性別はボンゴレの機密の一つだそうだから、9代目が上手く誤魔化して着替えの最中は綱吉から離れるように誘導らしい。
けれど、あまり長い時間部屋に閉じこもり続けていると、今のリボーンならそんな事構わずに突入してくるかもしれない。

だから綱吉は、宣言通りに早々に着替えてしまおうと、ぷちぷちと制服のボタンを外した。

そうする事で目に入るのは、本当に僅かな、しかし確かな胸のふくらみだ。


「俺が女だって知ってたら、リボーンは俺を信じてくれたのかな」


エレノアを暴行した。非力な少女を、男である綱吉が暴行しようとした。
それに憤慨しているというのなら、皆が綱吉の性別を知っていたら、こんな事にはならなかっただろうか。
現に雲雀は、綱吉が女であると確信していたから、信じてくれた。


「…仮定の話なんて……」


そこまで考えて、綱吉は自嘲した。
意味の無い事だ。もしもの話なんて、現状を打開する何の糸口にもならない。

それに、分かるのだ。超直感を持つ綱吉には。

例えば彼らが綱吉の性別を知っていたとして、それでもエレノアは綱吉を嵌め、リボーン達はエレノアを信じただろう。エレノアにはそう出来る力がある。

信頼と絆。目に見えないそれを容易く壊してしまう、そんな力が、エレノアにはある。


「でも俺は、男でも女でも、例え話にすぎなくても、皆に信じて貰えると信じていたかった」


綱吉は思わずと言った風に、ぽつりと心情を吐露する。

信じていたかった。過去形で語られるそれは、最早綱吉が彼らを一片たりとも信じていない事を示していた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ