長編2

□そして暮れてゆくあい
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出掛けたふりをしていると、エドワードは思ったとおりに、部屋を抜け出して邸外へと繰り出していった。

部屋を抜け、人が滅多に通らない回廊を選んで抜き足差し足。
そして人為的に開けられたと思われる、柵の穴からがさごそがさごそと通り抜ける。

そうして森の途中で労働者の普段着るような簡素で機能性ばかりを追求した衣服に着替え、町へと抜けて行った。

そして彼女が行き着いた先は、古びた小さな、古書店だった。

(わざわざ苦労して家を抜け出してまで書店?)

何だ…と一瞬安心し、どこまで本の虫なのかと呆れたロイの目の前で、
エドワードは店の前で待ち構えていたらしい少年に勢いよく抱き付いた。

少年は突如飛び掛かって来たエドワードの行動を読んでいたかのように、それを慣れた様子で受け止めて、家の中へと引き入れていった。


「…」


やっぱりな、とそれを見てロイの心は急速に冷えて行った。
一度安堵してしまった分、余計に感情は荒れ狂った。

見張っていても、その家に明かりが付けられる様子はない。
しん…と静まり返ったままの家の中で何が行われているのかと思うと、吐き気がした。

そもそもあれだけ婚約を嫌がっていたのに、抜け出せるのであればいつだって行方を眩ませる事が出来た筈なのに、彼女はそれをしなかった。
ロイは、それは何故かを考える。

(分かり切っている。外では生きていけないと理解しているからだ。
 あの子は自由よりも何よりも、贅沢な貴族の生活を選んだんだ)

――かつての    のように。

そう思うともう駄目だった。目の前が真っ赤になった。
貴族の女への憎悪が燃え上がった。

だから帰宅するエドワードを捕まえて、怯える彼女を引き摺って、
おもちゃの部屋へと放り投げ、彼女が一晩あの少年の夢中に耽っていただろう行為を強いてやろうと思った。

怒りの衝動と、どうしようもない情動のままに、ロイはエドワードの服に手を掛けた。

ひ、と引き攣った声がエドワードから漏れた。
一瞬の躊躇と罪悪感。

けれどロイはそれに気付かないふりをした。


終.
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