長編2

□また一人ここへ迷い込んできた
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すぐに屋上へとやって来た綱吉を出迎えたのは、胴着に着替えて肉まん片手に変わった構えをしているイーピンだった。

彼女は綱吉がやって来た事を察知すると、早口で中国語を捲し立てる。

曰く、『昨日は暗殺すべきターゲットと気付かずに助けてしまったが今日はお前を殺す』との事だった。
やはりかと肩を落とすものの、ダメツナが中国語の聞き取りが出来る筈が無いので、分からないふりをするしかない。

すると、分からなくて困っているという風を装った綱吉に、どこからか現れたリボーンがどや顔で通訳し出した。


「昨日は暗殺すべきターゲットとは知らずに助けてしまったが今日はお前を殺す」


訳し方の若干のニュアンスは違うが、綱吉が聞き取ったものと意味合いは同一だ。この赤ん坊は中国語まで分かるのかと、思わず感心する。

そんな彼女の目の前で、イーピンがすっと構える。例の、手を触れずに相手を吹っ飛ばす拳法だろう。
中国には氣を行使する技があると伝え聞くが、しかし夢想家が語るお伽噺だと思っていた。
綱吉は内心楽しくなって、その技を見極めてやろうとじっと目を凝らす。


「また超能力だ!!触れずに倒す超能力だ〜っ!!」


表面的に慌てふためいてみせた綱吉に、イーピンは容赦なく、拳を突き出した。
その手は本来リーチが短すぎて標的である綱吉には届かない距離だが、彼女は構わず力強く振り抜いた。
瞬間、体が打撃を認識してブワッと後ろに吹き飛んだ。頬もズキズキと痛む。

風圧を感じる程の拳圧でも無かった。ただ奇妙な違和感が残った。
そうまるで、体が勝手に動いたかのように。筋肉が、細胞が、意図せず勝手に操作されたように。

成程、と綱吉は納得した。
どうやってるのかは知らないが、彼女は神経か、もしくは脳を麻痺させて操作する術を持っているのだ。

(凄いけど、何だろ。あんまりその方法を知りたくないような…)

イーピンの拳法のからくりを認知したくないと感じて、綱吉は思考を放棄する。
しかし、リボーンが余計な助け船を出してくれた所為で、その概要は至極簡単に知れてしまった。

人の身体機能を操作するという、聞けば凄そうなその技の正体はニンニク。興醒めだ。
綱吉は若干がっかりした心地になった。
思わず口をついて「かっこ…………わる……」と本音が漏れる。
同時に人間爆弾という通り名の意味を推測し始めた。

ニンニクの香りと、爆弾。一体全体どのような関連性があるのか?

思案する綱吉の目の前で、イーピンは恐ろしい勢いで汗を噴出し始めた。
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