02/20の日記

14:56
桜・再掲SS(たぶん)
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日本の桜は綺麗だから、見に来いよ。
そんな内容の電話をもらった。
花なんて興味ない。それを知ってか知らでか御神苗は誘ってきた。
わざわざ興味のないものを日本まで行って見るなんて労力、考えられない。俺はそんな事の為に行くほど暇じゃない。なのに、行けたらな、なんて曖昧な返事をしていた。
次の任務までの時間が空いていた。普通ならここで一旦フランスへ帰る。今、ここで日本行きの便になんか乗っていないはずだった。
御神苗からの電話自体が珍しい。
だから何かある。
それを口実に。
それだけ。




「雪が降ってんじゃねーか」
「来るのが早すぎたんだよ」
「いつだなんて、お前言ってなかっただろ」

小さな蕾は雪に隠れ、桜の木は白く色を変えていた。この日、日本は季節はずれの雪が降った。でもたとえ雪が降らなかったとしても、桜の時期には早すぎたらしい。

「まさかこんなに早く来てくれるとは思ってなかったよ」
「たまたま空いたんだよ」
「それでも」

本来満開に咲き誇った桜は、こんな風に舞うらしい。雪が空から落ちてくるように。それなら見てみたかったかもしれない。

「なんで、見に来いなんて言った?」
「そんなの、口実だよ」
「は?」

聞いたことある。だってそれは俺が心で言い訳にしていた言葉だ。

「本当は桜なんて口実。ただジャンに会う為の」
「なんで」
「だから、会いたかっただけ」
「なんだそれ。くだらねー」

俺も御神苗も、ずっと桜を見ていた。いくら見たって花は咲きはしないのに。たぶん、互いに顔を合わせたくなかったんだと思う。表情を保つのに必死で。だから桜に逃げる。

「それなら、別に桜で釣らなくてもいいだろ」
「素直に会いたいって言ったらお前、日本に来たか?」
「興味ねえ桜でも来たんだから、……どうだろうな」

答えは、御神苗から電話をもらった時点で出ていたんだ。
口実の中に全ての真実はある。
簡単な事だ。
素直じゃない俺たちには、必要なものだけど。




「もう少ししたら、またここに桜を見にこよう。そしたら今度は、ちゃんと見られる」
「今度こそ?」
「そう。来るだろ?」
「たぶんな。満開の桜、見てみてぇしな」


そう言い合って、二人で笑った。

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