お題部屋

□恋に気が付く10のお題
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05:桜花に似てゆく頬の色(ろじいす)


ーー自分で知ってるこの気持ち。








「三郎次先輩、裾ほつれてますよ?」

「はぁ?」


地味に活動している委員会、先輩達が最後の確認の為に土井先生を呼ぶ間、最後の最後の確認をしながら2人で待つ。

ツンと裾をつまれて、上目遣いに聞いてくる。

くっそ、よく気が付く性格のくせに、こういうことには気が付かない。


「はぁ?って返事はないでしょう!?ちょっと聞いただけなのに!」

「お前こそその口の聞き方はなんだ。アホのは組。」

「ひどい!」

「あははッ、目が寄ってるぞ!」

「寄ってません!」




キィー




「はは、随分仲良くやってるな。」

「「土井先生!」」



倉庫の重たい扉を開けて、土井先生と先輩達が入ってきた。


「2人とも素直になればいいのにぃ〜」

「こら、こっちが口出すことじゃないぞ、タカ丸。」

「兵助くんも素直じゃないよ〜」

「ほっとけ!」



1人1言ずつ、こちらに言って入ってきた。

「?」

「あーいい、分かんなくていいから。」

?を浮かべてぼーっとしている顔をペチペチたたきながらいう。



「伊助、さっき何騒いでいたんだ?」

「いえ、別に何も!!」

「?三郎次、お前何かしたのか?」

「え、俺何かしたんすかね。」


いつも通りだ。いつも通りに、素直になれず、つらくあたってる。
伊助は、じっと下を見て何も言わなかった。






「よし、出るぞ。」


そうこうしている内に委員会は終わり、みんなでゾロゾロと出る。

スタスタ歩く先輩達に少し遅れて俺、伊助と続く。

ーツン

「…先輩。」

「…なんだよ。」

「す、裾が…」


言われてみてみると、裾のほつれが広がってぴろぴろと糸が出ていた。


「さっき扉に少し引っ掛かったのに、先輩強引に出てきたから、広がっちゃったんですよ。」

「あー…」

「縫いましょうか?」

あぁ頼む、と素直に言えない。


なんと言えばよいかわからず黙っていると、伊助が言葉を続けた。

「どうせ、虎若とか団蔵あたりも繕い物ありますから。」


ついでですよ、と下を向いて言い終えた。




「ついで?」

「え?」

下を向く伊助に、一言だけ答えた。

「俺のは、そいつらのついでなのか?」

どうしてこういう時だけスラスラと話すことが出来るんだか、自分にあきれる。

「…じゃあ今直します!」

「は?」

「なんなんですかもう!先輩わけわかんない…!!自分も分かんないけど!!」



ブツブツと何か言いながら懐から裁縫セットを持ち出した。

「お前そんなの持ち歩いてんのか。」

「うちは染物屋ですからッ!早く手を出して下さいッ!!」


答えになってないんじゃないか?とも思ったが、今は何を言ってもダメな気がして、ほつれた方の腕をだした。
さくさくと縫う手つきは滑らかで、怪我も少ない綺麗な手を思わずなでそうになった。
「ふぉらでひは。」

何を言ったかと思い手元を見れば、伊助は歯で糸を切っていた。

「おわっ!!」

ブチッ!

汚い音がして糸が切れた。俺が腕を引っ張りあげたため、勝手に糸が切れてくれた。


「あ!なんでそんなことすんですか…」

「あ、いや…」

「なんっ…でそんなっいぢわるばっかり…ふぇっ…ついでじゃっ…ひっ…なっ」


悪い、と珍しくこちらから謝ろうとしたら伊助が泣いていた。


「なんで泣くんだ…」
「わかっりま…せふっ」



「俺も、わかんねぇけどな。」

「ふぇ?」


流れる涙を指で拭ってやればこちらを見上げて。


「全く、涙ふくぐらいで涙止るのかよ。」

「…」

「ほつれ…直してくれてどうもな。ついでじゃなくて。」

「先輩がいつもいぢわるだから…」

「そうか…」



質問に答えるのがワンテンポ遅いが、今日はまぁ…いいとしよう。

「先輩、…先輩のほつれは、僕が直します。真っ先に持ってきてください!」


すっかり機嫌が直って、何かが変わった俺ら。






見つめる先のその頬は…







桜花に似てゆく頬の色

‐END‐


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