短編小説
□イロカパレット
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高層ビルが並ぶ街を上から見下ろす快感は言葉で表せない。闇の中では建物はライトアップされ、更にその美しさを引き立てる。
紅(アカ)は栗色の髪を靡かせながらビルの屋上に一人立っていた。その名の通り真っ赤な着物に身を包み、幼さの残る顔は好奇心に満ちている。
紅が屋上に居るのは景色を見るためでは無い。彼女はひたすら待っているのだ。街を脅かす悪――閻魔[エンマ]を。
高層ビルが建ち並び、蒸気機関車がレールの上を走る街、東和[トウワ]。着物を身に纏った人々が行き交う傍らには、洋館が群を連ねる。
和と洋。相容れぬ二つが絡み合い、一つの形となっているのが東和なのだ。
窃盗、殺人、麻薬……様々な犯罪が蔓延るこの場所で、警察でも手に負えない上級犯罪者を閻魔と呼ぶ。その閻魔を捕獲するべく創設されたのが東和の自警団、色華[イロカ]である。
色華とは犯罪者を捕獲し、警察に引き渡す使命を任されており、その中で最前線に立つのが忍[シノビ]と呼ばれる若者達だ。
忍は警察からの依頼を受け、閻魔を捕らえる。彼等は閻魔を捕獲する達人になるように幼い頃から徹底的に教育され、十二歳になると忍に認定される。
そして、二十代後半まで組織を無断で出る事は許されない。
色華は創設当初から数多くの閻魔を捕獲し、その名は瞬く間に東和へ広まった。今や政府までもが色華や忍の活躍を期待する程だ。忍は閻魔を倒すためにだけ存在した。
彼等はそれぞれ色の名前を与えられ、更に特殊な薬で一つの思想と感情を根強く宿される。
薬は色華の科学班が造り上げた。多少、副作用は在るが、人体に害を及ぼす程では無い。
薬を飲ませるのには二つの理由が在る。一つ目は副作用に寄る身体能力の増幅と、二つ目はより効率良く任務を行うためだ。
個人に合う色が在るように、閻魔と忍にも相性がある。
知識在る閻魔には“知恵”の忍。力在る閻魔には“力”の忍、と閻魔に合う忍を選抜するのである。
紅も色華の忍だ。彼女が宿すのは“娯楽”。紅は常に、己にとって愉しい事を追求するのを生き甲斐としていた。忍の中でもとても風変わりな少女だ。
そして、自分に課せられた使命すら心底、謳歌する。仲間の中には彼女を疎む者も居たが、紅は少しも気にしなかった。否、疎まれている事さえ認知していないのかもしれない。