短編小説

□イノセンス
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――紅の葉が咲く時、また会えるよ。


そう言って私の前から去った背の高い後ろ姿を見たのはいつだっただろう。
あれから十年が経ち、私は十七回目の誕生日を迎えようとしている。

桜の花が視界いっぱいに広がった春に出逢い、雲のように白い雪が降った冬に離別を果たした彼の事を、今も鮮明に憶えている。

彼は、私の初恋だった。近所の家に居候していた中学生で、年の割りには利発で落ち着いた雰囲気を持つ不思議な少年。
穏やかなトーンで話し常に笑みを浮かべ、本当の自分を隠してるように感じた。だから出会った時、私はこう言ったの。――もっと子供らしくしたら、と。

彼よりもずっと年下の、七歳の少女が何を言い出すのか、と普通なら腹を立てても可笑しくはない。
けれど、彼は優しい微笑みを端正な顔に乗せたまま私の頭を撫でた。微笑むだけで結局聞き入れて貰えなかったが。
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