短編小説

□イノセンス
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彼は両親を事故で失くし孤独な日々を送っていた筈なのに、寂しそうな姿は一度も見せなかった。
居候して貰っている親戚の家でも我儘や不満を一切口に出さず、いつも一歩引いてるかのように距離を持っていたのだ。

そんな彼でも、心の中はきっと寂しい筈。私は身勝手な同情で頻繁に彼を家へ誘っては遊んだ。
適当にあしらっても良かったのに、何故か彼はそうしなかった。それが嬉しくて、毎日のように彼に会いに行った。いつしか私は彼が大好きになり、彼もまた自分を好いてくれてるのだと思い込んだ。

……そんな都合の良い事がある筈が無いのに、無邪気とは恐ろしい。あの時、私は刹那も疑わなかった。彼に別の好きな人がいる事を。

一年後、優秀な彼は名門校の推薦を受け遠い町へ行く決意を幼い私に告げた。全寮制らしく、家からもかなり遠い位置にあるため三年間は戻れないのだと言う。
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