novel

□Person of the only
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「……もういいだよ……ここにいるも出ていくも悟空さの好きにするといいだよ。悟空さがここにいたいって言うんなら、おらが出て行くから」

 そう言ってチチはベッドから出た。

「ダメだっ!!」

 部屋を出ようとしたその時、悟空はチチのか細い腕を掴んだ。

 チチは挑むような目で、

「なら悟空さが出て行くだか?」

 そう言って、悟空の手を振り払った。

「……行かねえ……ここがオラん家だ……」

 俯き加減でそう言う悟空。
 
 チチにはその表情が見えない。

「ならおらが出て行くしかねえべ」
「行かせねえ!!」

 そう言ってチチのその華奢な身体を自らの腕の中に閉じ込めた。

「ご、悟空さ……?」

 悟空は数年振りに感じる妻の匂いに我を忘れそうになった。

 決して、決して帰って来たくなかったわけじゃない。

 ずっと、ずっと会いたかった。チチに会いたかった。

「……ずっと……オメエに会いたかったんだ…こうして触りたかった……」
「なら何でっ!?」

「オラ、強くなりすぎちまってオメエをぶっ飛ばして……オメエを潰しちまうかも知れねえって……怖くなっちまったんだ……」

 悟空のその声は震えていた。


 怖い。強くなりすぎて、チチを傷付けてしまう事が。

「……悟空さ……」
「すまねえ……」

 力を込めて抱いているのにどうしてだろう?いつもみたいな力が出ていないように感じた。

「……おら……おめえにいつもうるさく言って……だから嫌われちまったのかと思っただよ……」
「そんなわけねえじゃねえか……オメエがうるさく言うのはオラが悪いんだ。それにオメエが怒る声聞くの嫌いじゃねえし」

「悟空さはマゾだか?」
「マゾって何だ?」

 笑いながら言うチチに、悟空は安心した。

「オメエが怒ってる声聞くと地球に……パオズ山に帰って来たんだって思えるぞ」
「何だベ? それ」

「今日帰って来ても、オメエが『今まで何してたんだっ!?』っていつもみてえに怒鳴ってくれなかったからよ……すげえ不安だった……」

 悟空も悟空で不安だったのだ。

 今までも、何日も家を空けた時、チチは『今まで何してたっ!?』と怒鳴っていた。

 悟空はその声で帰って来たんだと実感し、自分を心配してくれてると安心できた。

 しかし、今日のチチは静かに怒っている感じがして、何か修復不可能なものを感じていた。

 挙句に吹っ飛ばして怪我をさせてしまったのだ。

 それが余計に拍車をかけてしまった。お互いにとっても……。


「……変な悟空さ」

 悟空も胸元でクスッと笑うチチ。

「……どうせ変だよ……」

 不貞腐れながらも嬉しい悟空。

「……でもおら……悟空さは悟空さなのに、何だか知らねえ人みてえで……なんだか違和感を感じて、不思議だった……」

 そう、いまだ拭い切れない不安を吐露するチチ。

「……チチ……オラ、オメエにまだ言ってねえ事がある……」
「悟空さ……?」

「はあっ!!」

 悟空はチチから離れ、気を高めた。

「きゃあっ!?」

 途端真っ暗だった寝室は金色の光に包まれ、そこには金色の髪に翡翠の双眸をした、見知らぬ男がいた。

「ご、悟空さ……?」

「これが超サイヤ人だ」

 そう言えば悟飯が宇宙から帰って来た時、悟空が超サイヤ人になったなどと意味のわからない事を自慢げに言っていた。

 それがこの姿なのか?自分の感じた違和感はこれだったのか?


 怖い……。


 まわりをも威圧するような気は、気を読めないチチですら常人のそれではない事がわかるくらい凄まじかった。

 姿の変わってしまった夫に対する恐怖。でも……。


 きれい……。


 金色に輝く夫の姿はとても綺麗なものだった。


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