novel

□Real intention(the first desire -other story-)
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 チチが寝室に入る頃、いつも悟空は既に夢の中にいた。
 いつもどれだけ激しい修行をしているのだろう。帰宅する頃もクタクタになって、就寝時間も早い。
 まだ21時だというのに悟空はグッスリと眠っていて、チチがたてるちょっとした物音にも気付かない。

 そんな悟空を見ていると自然と涙が溢れてくる。
 自分はきっとこの人には好かれてなどいない。いや、嫌われてはいないだろう。しかし、自分が望むような答えは返ってこないのだろう。
 そんな気持ちを押し殺し、チチは今日も悟空の隣で眠れぬ夜を過ごす……はずだった。

 悟空もまた、チチを思い眠れずにいた。
 どうしたらいいのかわからない。もっともっと、チチに近付きたい。チチの笑顔が見たい。
 でもチチは貼り付けたような笑顔を浮かべるだけ。嘘の笑顔を。
 こんな無理したチチの笑顔を見たいわけじゃないのに。でも、どうしたらチチが笑ってくれるのかわからない。
 それもきっと、自分の中に渦巻くこの不思議な感情のせいだ。こんな気持ちが無くなれば、チチは前のように笑ってくれるのだろうか?

 そんなことを考えていると、チチが寝室の扉を開けた。
 悟空は思わず毛布を被り、寝た振りをする。
 チチはしばらくの間寝室の入口で呆然と立ちすくみ、そして鼻をすする音をたてた。

(泣いてるんかっ!?)

 悟空はそのすすり泣くような音とチチの気の乱れでそれを察知した。
 悟空は思わず毛布を跳ね除け身体を起こした。

「悟空さっ!?」
「チチッ、何で泣いてんだ!?」

 ビクッと身体を振るわせたチチに詰め寄る。その細い肩を掴み間近で見たチチの瞳にはやはり涙が浮かんでいる。

「な、泣いてなんかいねえだよ。ね、眠くて、欠伸が出ちまっただけだべ……」
 目を逸らしそう言うチチに、悟空の中の何かが弾けた。

「嘘吐くなっ!! オメエ泣いてんじゃねえかっ!?」
 その途端、チチの身体が大きく震えた。

「す、すまねえ……」
 そのチチの反応に悟空は我に返る。

 チチは何も言わない。大きな瞳を見開き、絶句しているようだった。

 涙に濡れたその大きな瞳を見ていると、悟空の奥深くに眠る獣の血が騒ぐような、そんな感覚に陥りそうになる。

 チチは自分を狂わせる。これ以上チチを見ていると、自分じゃない自分が現れる。そしてチチをもっと泣かせてしまう。

(ダメだっ!! これ以上はっ!!)

 これ以上自分を解放したらチチは自分から離れていってしまう!!

 悟空はチチから手を離し、目を瞑って背中を見せた。

「……悟空さ……?」

 様子のおかしい悟空にチチは声をかけ、その手を伸ばす。

「触んなっ!!」

 悟空は思わずチチの手を払った。

 チチは驚愕を恐怖の色を浮かべ、ただ立ちすくむ。

「す、すまねえっ!!」

 悟空は道着だけ掴み、寝室から飛び出した。

「……悟……空さ……」

 チチは力が抜けたようにその場に座り込んだ。

(悟空さに拒絶された……嫌われた…)

 そして床に突っ伏し、号泣した。

 きっとこの世の終わりとはこういうことなのだろう。

 チチはただ、力なく泣き続けた。



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