novel

□open the door
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 湖へのドライブの帰り、悟空は突然ピッコロに用があるから先にカメハウスへ行けと言って天界に瞬間移動した。
 そしてカメハウスで悟空を待っていると突然瞬間移動で現れ、『新しいナメック星からデンデを神様として連れてきた』と言って悟飯を連れて行った。

 その場に残されたチチは理由もわからず呆然とするばかり。

 テレビからは不安の声ばかりが聞こえる。それなのに悟空に置いて行かれ、更に不安が募る。

 この場には武天老師とチチだけ。クリリンも悟飯と一緒に天界に行ってしまったし、ヤムチャも気になることがあるのだろう、どこかへ行ってしまった。

 とにかく心臓病を発症させた悟空を匿って貰っていたときのように、女手のないカメハウスの台所で洗い物をしていても出るは溜息ばかり。
 窓から見える海はとても静かで、本当に数日後にはこの地球の存亡を賭けた闘いが起こるのだろうかと疑ってしまう。

 しかし、その闘いには自分の夫が確実に関わってくる。

「チチさんや」

 不意にテレビの前のソファーでタバコを吹かす老人に声をかけられた。

「何だべ? 武天老師さま」
 濡れた手を拭ながら老人の方を振り返る。

「そう不安がるでないぞ」
「え?」

 武天老師はテレビの方を向きながら言った。

「お前さんの旦那は何かしら考えがあるんじゃろうて」
「……」

「悟空がワシの弟子になった頃はそれはそれは無知でな、考えるということもあまりしなかった。何でもまいっかで済ませてな」

 武天老師はフーっとタバコの煙を吐いた。

「その悟空が今はワシらでも想像がつかんくらい、いろいろ考えているようじゃ。それもこれもお前さんのお陰じゃわな」
「な、なして、そっだらこと……」
「お前さんと結婚して子供が出来て、ワシらの知らないお前さんたち家族の生活がある。その中で悟空は確実に守るべきものを得て、より強くあろうとしたんじゃろ。ただ楽しむだけの闘いから守るべきもののための闘いへと意識が変わっておるんじゃないのかのう?」

 武天老師はチチの方を向き直り、そして続けた。

「悟飯を初めてここへ連れてきたとき……悟飯が悟空の兄とか言うヤツにさらわれたときじゃな……それはそれは悔しそうな顔をしおった。闘いに負けてする悔しそうな顔ではなく、子供を奪われた父親の悲壮感というものがひしひしと伝わってきた。あの悟空がこんな顔をするのかと、一瞬我が目を疑ったがの」

 チチにもそのサングラスの向こうの目を細めているのがわかった。

「守るべきものを得て、より強くなった悟空はもはやワシの手の届かん、宇宙一の男じゃ。お前さんはその男の妻じゃ。そのお前さんが一番悟空を信じてやらねばならんじゃろ?」

 悟空を信じる?

 チチはその言葉に拳をグッと握る。

 信じていると思っていても、心のどこかで不安だった。負けて、自分のところに帰って来なかったら、と。
 でもあの姿で、余裕すら感じる悟空なのだ。何か勝算があるに違いない。
 悟空の妻である自分が、一番悟空を信じてやらねば誰が信じるのだ?

「あったりめえだ!! おらの悟空さは宇宙一の男だべ!! おらはその妻だ!! 悟空さがセルを絶対に倒してくれるって信じてるからなっ!!」

 気の強そうな大きな瞳を見開いて胸を張り、高らかに宣言するように叫ぶ。

 悟空を一番信じるのは自分だ。チチはそのことを忘れそうになっていたのかも知れない。
 だけど武天老師の言葉で再確認した。自分は悟空の妻であり、一番悟空を知っているのは自分なのだと。


「フォッフォッフォッ、さすが宇宙一の男の妻じゃわな。ただの教育ママさんではなかったようじゃの」

 かつての自分の弟子同士の子、正しくは一番弟子が拾い育てた孫と二番弟子の娘であるが、その二人が結婚し子を成すという、何という縁の深さ。

 武天老師はいつもこの夫婦を見る度に思う。広い宇宙、違う惑星に生れ落ちてもこうしてめぐり会う縁の不思議と言おうか。絆の深さと言おうか。

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