novel
□Real intention(the first desire -other story-)
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抑えていた感情が、爆発しそうで。
でも伝えられない、
この切ない想い。
八卦炉から洩れた火を消し、フライパン山で結婚式を挙げた悟空とチチの若い夫婦は、悟空の故郷であるパオズ山に建てて貰った新居で新婚生活を始めた。
仲睦まじい新婚生活を送っていると思われたのだが……。
「悟空さーーーーっ!!」
「すまねえって!! ちょ、やめろって皿投げるんはっ!!」
「こんなの当たって平気なくせに何言ってんだっ!?」
「さすがに痛えって!!」
ついこの間まで静かだったパオズ山も急に賑やかになった。
毎日毎日この調子。甘い雰囲気など微塵にも感じさせず、悟空とチチは毎日飽きもせず喧嘩を繰り返していた。
喧嘩と言っても一方的なものではあったが……。
それもそのはず。新婚の蜜月のはずなのに悟空は修行三昧。しかも性質が悪いことに一度夢中になると帰宅することも忘れる始末。
帰宅が深夜になることも、それどころか一週間近く帰って来ないこともある。
新妻のチチはその度に烈火の如く怒る。
元々武道家のチチだから、怒りながらも攻撃に出てくる。
チチを怒らせて攻撃されている悟空も、最初は困惑しながら防御していたのだがだんだん組み手のような感覚になって楽しくなっていた。
そしてその様子にチチはまたも激怒するのだが、そのうち涙を流し出し、床に突っ伏して号泣する。
さすがの悟空もチチがそんな風になると「すまねえ、すまねえ」と何度も言いながら、うずくまって泣くチチの背中を擦ってやるのだ。
そんなやり取りを何度も繰り返しているのに悟空は全く懲りない。
それどころか、こうしたチチとのやり取りが何だか楽しいものにも思えているようなところもあった。
チチは仲間とも死に別れた祖父とも違う、それでもすごく近しい存在なのだと思うのにそう時間はかからなかった。
しかし、それと同時に今まで感じたことがない、不思議な感覚を覚えるようにもなった。
『悟空さ大好き』
チチにそう言われるだけで、妙に胸の奥がむず痒くなった。
そして、何だかわからないけれど、解放してはいけない、そんな感情の渦に飲み込まれそうな感覚に陥るのだった。
「悟空さ。早く風呂に入るだよ」
「おう」
一通り怒るとスッキリするのか、すぐにいつものチチに戻る。
そしていつもの通りに『手を洗え』『風呂に入れ』『いただきますと言え』とお小言が始まる。
いつもその口煩さには辟易する。するのだが……それでも心底嫌かと問われえれば、きっと『そうじゃない』と答えるだろう。
何だかこのお小言を聞かないと此処へ帰ってきたと思えない自分もいて……。
とりあえずチチに言われた通りに風呂に入る。
昔は風呂なんてどうでもいいとさえ思ったのに、今は存外気持ちいいものだと思う。
風呂から上がるととてもいい匂いが鼻をくすぐる。悟空はそれが嬉しくて、ついウキウキと心が弾む。
チチは悟空が風呂に入っている間に夕食の準備を整え待っている。
それがこの新婚夫婦の日常。
喧嘩して泣いて笑って。ちょっと変わってるけれど。それでもどこにでもあるような家庭だった。
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