過去拍手SS
□やさしい嘘
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「おとーさーんっ!!」
いつもより着込まされた次男がたくさんの栗が入ったカゴを抱えて走ってきた。
「悟天、いっぺえ採ったなぁ!!」
「へへへ!!」
はにかみながらカゴを差し出さす次男の頭を撫でてやる。
次男は擽ったそうに身を捩る。
「お父さん悟天、僕もこれだけ採りましたよ」
長男もカゴを抱えてやってきた。そのカゴの中には次男以上に栗が入ってる。その上、木の実も入っている。
「お!! 悟飯もいっぺえじゃねえか!!」
長男にそう声をかけると、自分の足元から不穏な空気が漂ってきた。
「ご、悟天?」
「ぼくが一番少ない……」
「「へ?」」
長男と同時に間の抜けた声を出してしまった。
「ぼくが一番少ないよ……」
何分負けず嫌いで頑固な次男の事だ。
ここでへそを曲げてしまってはなかなか機嫌が戻らない。
次男の泣き出しそうな顔に、自分達は困惑の色を隠せない。
自分が採ったものも子供達よりも幾分か多い。
困ったな……と、長男と目で会話する。
「……あ、悟天、悟飯がオメエくれえの時はオメエみてえにいっぺえ採れなかったんだぞ」
「そ、そうだよ!! 兄ちゃん、もう全然採れなくて……」
長男は自分の話に乗ってくれた。
そんなはずはない。長男は4歳の頃一人でサバイバル生活をしたのだ。次男の年の頃にはすでに次男以上に採っていた。
「ホント……?」
涙目で見上げてくる次男に、
「おう!! 父さんオメエに嘘言った事あったか?」
「そうだよ悟天。お父さんも兄ちゃんもお前に嘘吐いた事ないだろ?」
「……うん……」
少し鼻を啜りながら答える次男に、長男と顔を見合わせてホッと息を吐いた。
「さあて、早く家に帰えるか!! 母さん待ってっぞ!!」
「そうですね。今日の晩御飯は栗づくしですね」
「こんなにいっぱいあるもんね!!」
次男の機嫌はすっかり治っているらしい。
長男も安心した顔をして次男を見ている。
「オラ、栗ご飯がいいなあ!!」
「僕は栗きんとんですね」
「ぼくモンブランッ!!」
口々に言う。
親子三人、夕暮れの我が家までの道を歩く。
いっぱいの栗に妻は感嘆の声を上げるだろう。
そして、家族で湯気の漂う食卓を囲むのだ。
end