リクエスト・捧げもの

□Gratitude -ブウ戦後・孫家-
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「……変わってねえ……」

 7年振りに見る我が家は全くと言っていいほど変わっていなかった。

 死んで7年も経てば街の様子も変わる。

 まだ小さな子供だった長男も自分と背丈も変わらないほど成長して、一端に恋などするようになっていて。
 生まれた事すらも知らなかった、幼い頃の自分に瓜二つの次男の存在も。
 切り揃えられた前髪が、すっかり伸びてしまった妻も。

 みんなみんな少しずつ変わっているのに、この家は変わっていない。

 そして自分が生まれ育った、このパオズ山。

 ここも変わっていない。


 妻と一緒になって、ここで共に生きようと二人で戻ってきた。

 それから幾度か長期間戻って来れなかった事もあった。

 戻ってきてその度に思う。ここは決して変わっていないと。


 周囲を見渡す。

 夕焼けに染められたこの山々は死ぬ前日に見た時と同じ赤。

 その時隣にいた妻の横顔。
 今も自分の隣に立っている妻の横顔。

(やっぱり……変わってねえや……)

 嬉しくて、ついつい顔が綻ぶ。

「おとうさんおとうさんっ」

 小さな次男がズボンの裾を引っ張る。

「ん? 何だ? 悟天」

 次男は妻に似た満面の笑みを浮かべ、

「おかえりなさい、おとうさん!!」

 その顔とその言葉に鼻の奥が痛む。

「……たでえま。悟天」

 その小さな身体を抱き上げる。

 次男は首に抱き付いてきた。
 その吐息がくすぐったい。

 この次男が生まれた時、自分はその事も知らずにいた。

 不憫な事をした。後悔と自責の念で押し潰されそうになる。

「今日からぼくにもおとうさんがいるんだね」
  
 嬉しそうに、そして少し涙を浮かべてそう言う次男の身体を思いっきり抱き締める。

「……ああ……これからはずっとオメエ達と一緒だ」

 不覚にも泣きそうになった。


「……おかえりなさい、お父さん」

 聡明な長男の笑顔も。

「おかえり悟空さ。待ってただよ」

 最愛の妻の声も。

「ああ……たでえま」

 本当は何一つ変わってなどいなかった。 


「……ありがとうな、オメエ達……」

 
 変わらずにいてくれた事。生まれてきてくれた事。

 ありったけの感謝の気持ちを込めて。


 ありがとう―。


 end

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