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□空を見上げて (DB)
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空を見上げて vol.2
「ほ〜ら、悟天。今日もいい天気だべなぁ〜」
まだ一歳にも満たない我が子をその腕に抱え、チチは空を見上げた。
腕の中の子供は母の声に導かれるように空に手を伸ばした。
「悟天。この空のもっともっと上にな、悟天のおっ父がいるだよ」
「あう〜」
悟天はジッと空を見ている。
「悟天。おっ父はな、この空みたいな人なんだべ」
青くて広い空。地球を包み込むようなこの空はまるで死んだあの人のよう。
近く見えて、でも手の届かないような、そんなあの人に。
「いつか……会えるといいだなぁ……」
それはこの身が果てたときではあるけれど。それでも会えるなら。
「おっ母なぁ、もう二度と待たねえって言ったんだけんど、やっぱり無理だべ」
悟天は母の顔をキョトンとした顔で見ている。
「何があっても、悟空さのこと、待っちまうんだべなぁ……」
たとえ次に会えるのがあの世であっても。
「でも、今度はおらのが待たせてるんだけど。あ、悟空さのことだから、おらのことも忘れて修行してんだべな」
ハハハと笑いながら。しかしそれは自嘲気味でもなんでもなく。
ただ、そんな夫のことを思い浮かべるだけで本当に可笑しくて。
この地球を守って死んだ夫。この子を遺して死んだ夫。
今度は恨み言なんて言わない。何で置いていったのか?と言いたい気持ちもあるけれど、それでも自分に子供たちを遺していってくれたのだから。
彼の最期の言葉が自分に対する言葉だったから、それで許そうと思ったから。
自分のことなど忘れてしまっているのだと思っていた夫が、自分に対して言葉を遺したのだから。
忘れてしまってもいい。ただ―。
ただ、時々でいいから思い出して欲しい。
「なあ悟天……おっ母なんだか、ここでおっ父のこと待っていれば、また帰ってきてくれるような気がするんだべ」
寂しげに、でもどこか決意を秘めたような母の瞳を悟天はキョトンとした顔で見ている。
「いつか、おっ父に会えるといいだな」
「あうー」
チチの声に呼応するように、悟天は空を見上げた。
end