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□空を見上げて (DB)
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空を見上げて vol.5


 青い空の下、パラソルの陰にデッキチェア。

 武天老師はいつものようにエッチ本を見てはニタニタと笑う。

 ふと本から視線を外し、空を見た。

「相変わらずいい天気じゃのう」

 澄み切った青い空に白い雲。

 何とも心地いい風も吹いている。

「本当ですね、武天老師様」

 デッキチェアの傍の、長年一緒にいるウミガメが返した。

「どうにもこんな空を見てるとな、悟空が筋斗雲で飛んで来そうな気がしてな」

『じっちゃーんっ!! 亀仙人のじっちゃーんっ!!』

 心の澄んだ者にしか乗ることを許されない筋斗雲に乗れる武天老師の弟子、孫悟空。

 何年か前に死んだ悟空。彼が弟子になった頃の、少年だった頃の声が上空から聞こえてきそう気がする。

「悟空さんですか。懐かしいですね」
「気が付けばワシを超えておったがの」

 ここへ来た頃は何も知らない野生児だった。ただ一番弟子の孫だけのことはあり、武道の基礎は叩き込まれていたようだが。

「悟空さん、天下一武道会の後にここへいらっしゃったときは随分驚きました。あんなに大きくなられて。それにお嫁さんまで連れて」

 ウミガメは目を細めて言った。

「そうじゃったのう。でもな、ワシには悟空がここへ初めて来た頃の姿が一番印象強くてな」

 小さくて、でもとてつもない力を秘めたあの少年。

 尻尾のある、どこか不思議な雰囲気を持った少年。

 みるみるうちに上達し、気が付けば武天老師のことも追い越していた。

「……もうワシがアイツの師匠なんて言ったら恥かしいだけじゃな」

 かつての弟子であったとしても今は雲泥の差。カリンにも神にも界王にも師事し、宇宙一強い男になったと言っても過言ではないだろう。

 そんな男の師匠であったことなど、おこがましいのではないかと思わなくもなかった。

「武天老師さま……」

 ウミガメにはサングラスの奥の瞳が僅かに揺らいだのがわかった。

 その宇宙一強いだろう、武天老師のかつての弟子は、もうこの世の人間ではない。

 妻子を遺し、彼はこの地球を守る為の戦いの末この世を去った。世間では違う人物が救世主とされているようだが。

「……すっかり……置いてけぼりを食らってしまったのう……」

 他の弟子にも追い抜かれてしまった。

「いいえ、武天老師様」

 ウミガメはその目に微笑みを湛え、武天老師に向かって言った。

「きっと悟空さんにとって今も武天老師様はお師匠様ですよ。一番のお師匠様はきっと武天老師様ですよ」

 その言葉に武天老師はサングラスの中で目を大きく見開いた。

「そうかのう……」
「きっとそうですよ」

 顎鬚を擦り、武天老師は空を見上げる。

 本当にそう思ってくれているのかのう……。

 もうこの世にいない弟子に問いかけた。

 ……いつか、あの世で会ったなら。

 そのことを聞いてみようか。


 end
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