お題・英単語
□lonely-寂しい-
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「ただいまぁ……」
帰宅し、玄関の鍵を開ける。
静かだ……。
それは当たり前だ。
だって家には誰もいないのだから。
それでも『ただいま』と言うのは遠く離れた夫に告げるため。
そう言うだけでも少しは気分も紛れる。
東京と松島。
遠距離別居婚だけど、毎日連絡は取り合っている。
二年も離れていた末の結婚だから、多少距離があっても会えなくても自分たちの想いは揺るぎない。
とは言っても寂しいものは寂しい。
帰宅して部屋に明かりが点いていないだけで寂しくなる。
独身の頃は全然平気だったのになあ……。
遠く離れていているけど、たまにしか帰って来ないけど、それでもあの人がいるのが当たり前になっているのだ。
会いたいなあ……。
今週末には会えるけど、あと三日、耐えられるかなあ……。
「ただいまぁ……」
翌日もいつも通りに、何の気なしに言う。
「あれ?」
玄関に明かり。それに見覚えのある皮靴。
「おかえり」
「え?なんで?」
リビングから夫が満面の笑みで出てきた。
「早くリカに会いたくて。な〜んて。急な出張でね」
夫はいたずらな笑みを浮かべて言った。
「なんで言ってくれなかったのっ!?」
「驚かせたかったんだよ」
「……」
「あれ?怒った?」
長身の彼は困ったように顔を覗き込んで言った。
「……怒るわけないじゃない……」
そう言って玄関で靴も脱がずに夫の腰に抱きつく。
「寂しかったんだもん……」
子供のように彼の胸に顔を埋めた。
「俺だって寂しかったよ」
夫はそう微笑んで髪を撫でる。
「嬉しいサプライズです……」
「そう?それはよかった」
夫は髪にキスをした。
「このまま週末までいられるの?」
「明日こっちで仕事でそのまま週末はいられるよ。こっちの出張、俺が来ることが増えそうなんだ」
「ホント!?」
顔を上げて夫の顔を見る。夫は優しげに微笑んだ。
「室長もその方がいいだろって。他の人も出張あまり行きたがらないしね、丁度いいみたいだよ」
「嬉しい」
再び夫の胸に顔を埋める。
「俺だって嬉しいよ」
彼の優しい声が頭上で響く。
「生大祐さん。やっと会えた」
「生リカにやっとキスできる」
夫の顔を見上げると、夫はそう言って二秒だけのキスを落とす。
「また二秒」
「基本です。でも回数は多いけどね」
「もう……」
また夫のキスを受ける。
寂しいけど、頑張れる。
彼への気持ちと、彼の私への気持ちがある限り。
大丈夫。
end