novel
□Eternal oath
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何だろう……。
この言い知れぬ不安は……。
君を見ていると、
何故こんなにも不安になるのだろう―。
「キレイだべなぁ」
暗闇に浮かぶ無数の小さな光に、チチは感嘆の声を上げた。
「オメエが好きそうだったしさ」
悟空はチチの横に立ち、チチと同じように小さな光を見つめる。
「フライパン山にも蛍はいたけんど、こんなにたくさんは初めて見たべ!!」
悟空は目を輝かせて喜ぶチチを直接見るのは何となく気恥ずかしくて横目で見る。
「ホタルは水がキレイなトコにしかいねえって、じっちゃんが言ってたな」
「だべな。パオズ山は本当に水がキレイだもの」
ウットリと蛍を見つめるチチ。
悟空は昼間の修行中、そろそろ蛍の時期だと思い出して、祖父と自分だけの秘密の場所にチチを連れて来てやろうと思い立った。
そして夕食が済み夜が更けた頃、何の説明もせず、訝しむチチを無理矢理連れ出した。
「悟空さと悟飯様の秘密の場所なんだべ? おらなんかが来てもよかっただか?」
申し訳なさそうに言うチチに悟空ははっきりと言った。
「? オメエはオラのヨメなんだろ? だったら当たり前じゃねえか?」
チチは自分が喜ぶ事を自然としてくれる悟空に胸が熱くなった。
悟空は好きと言ってくれないし、そういう態度も見せてくれない。
ただの同居人になってしまっている自分に自信を無くしている時に限って、悟空はチチの喜ぶような事をしてくれた。
だからチチはまたこの人の為に頑張ろうと思えた。
悟空はついこの間結婚式というもの挙げて永遠の誓いというものを誓ったけれど、嫁と言う概念も、チチの言う『好き』という言葉の意味もよくわからなかった。
でもチチがずっと一緒に暮らす存在で、その存在を大事だというのはわかっていて。
だから時々、チチが喜びそうな事をしてやりたくなる。
チチの喜ぶ顔が無性に見たくなるのだ。
「本当にキレイだべ……ありがと、悟空さ」
「……うん……」
ニッコリ微笑むチチに、悟空はそれ以上言葉を発する事が出来なかった。
暗闇で淡く光る蛍も綺麗だけど、チチの喜ぶ顔が見たい。
そう思った途端、顔が妙に熱を帯びてきた。
そしてチチに聞こえてしまうのではないかと思うほど、心臓がドクドクと鳴っている。
横目で見るチチは蛍の光の中でこの世のものではないのではないかと思うほど、幻想的に映った。
だけど何故だかそんなチチを見てると、どこかへ消えてしまうんじゃないかと不安にもなる。
「……チチ……どこへも行くんじゃねえぞ……」
思わず口をついて出た言葉。
チチがどこかへ行ってしまうのではないかと不安になった。
「んだ。真っ暗だもの。川に落っこちまったら大変だもんな。ちゃんとここにいるべ」
チチはそう言って悟空の腕を掴む。
いつもなら照れて嫌がる悟空なのに、今日は振り払わない。
チチは不思議に思いながらも、悟空のぬくもりをただ感じていた。
それは結婚して初めての夏―。
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