過去拍手SS

□once in a blue moon
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「あら?月の色青くない?」
「あ、ホントだ」

 突然のビーデルの言葉に、悟飯は月を見上げる。
 
 夜空にポッカリと浮かぶ満月。でも何となく青い色をしている。

 今でも昔の名残かも知れないけれど、満月を見上げると尻尾のあったあたりがムズムズするような気もする。

「綺麗って言うか……また何か起こるのかしら?」

 どうにも普通ではない青い月。また何か起こるのかも知れない、と思えてしまう。
 
 魔人ブウの一件からビーデルも父のミスター・サタンも一般的ではない、いや、はっきり言って常人ではない人たちとの付き合いが増えた。
 
 ビーデルはセルとの闘いで父が救世主だと思っていたのに、本当の救世主はこの悟飯とその父である孫悟空だと知った。

 それ以前のはちゃめちゃな出来事を聞かされたときはさすがに面食らったが、でも魔人ブウとの闘いでこの人たちが常人でないことはわかったし、何があっても悟飯は悟飯だから別に関係ないと思ったのだが。

 しかし、また何かに巻き込まれたとしても、この人たちのことだからなぁ……などと思う自分もいたりして……。

 なんてことを考えていると、ふいに悟飯が言った。

「"once in a blue moon"だよ」
「"once in a blue moon"?」

 ビーデルは悟飯の言葉を繰り返した。

「そう。大気中の塵の影響で月が本当に青く見えることもあるんだって。それと火山の噴火や隕石の落下時に発生するガスや塵などの影響でも、かなり稀でいつ起こるか分からないけど、月が青く見えることがあるって」
「そうなんだ」

 こういうときの悟飯はグレートサイヤマンのときとは違う意味で生き生きしている。
 心底勉強が好きなんだなと思う。

 実際に彼は学者になるという幼い頃からの夢を叶えた。

「そのことから"once in a blue moon"は『極めて稀なこと』とか『決してあり得ないこと』って意味を指す言葉になったんだって」
「へえ。相変わらず悟飯君って物知りねえ」

 ビーデルは少し苦笑した。本当に悟飯は物知りだ。しかし、意外と知らないことも多い。
 何というか、そのほとんどが俗っぽいことなのだけど。

「"once in a blue moon"かぁ……素敵な響きよねえ」

 "once in a blue moon"。すごく心惹かれる響き。ビーデルは口の中で小さく繰り返す。

「大気がどうのって話は小さい頃に辞典で調べて知ったんだけど、この言葉はお母さんに教えて貰ったんだ」
「へえ」

 悟飯の母のチチも物知りだと思う。悟飯の勉強好きも学者の夢も母の影響だというし、ちょっとマザコン?と思う部分もあったりするけど、何となくそれとは違うということも知っている。

 彼の父親が生き返るまでの7年間、父親が死んだ後に生まれた弟と母を、彼がずっと守ってきた。
 弟に対しても多少過保護なところがあっても、それは父の代わりに自分が守らないとという気持ちの表われ。今もその延長みたいなもので。
 でもそれとは関係なくてもかわいいのだろうけれど。

 実際ビーデルも人懐っこい悟飯の弟の悟天のことをかわいく思っている。

 それに悟飯の母を本当の母のように慕っている。母がいないビーデルにとって、チチは理想の母親だった。
 チチもビーデルが学生の頃からかわいがっていた。元より女の子が欲しかったので嬉しくて仕方がないらしい。

 強くて厳しいけれど、でも気さくで優しいチチ。そんなチチがビーデルは大好きだった。

「昔に見たことがあるって」
「おばさんも見たんだ」

 ビーデルはそれまで見上げていた視線を悟飯に移す。

「それでお母さんに教えて貰ったんだけど……」
「うん?」

 そして悟飯もビーデルに視線を移した。
 
「ブルームーンを見ると幸せになれるという言い伝えがあるって……」
「え……?」

 ビーデルを真っ直ぐに見据え、悟飯は一際優しい瞳で言った。

「僕たちも……そうなるといいね」

 一瞬キョトンとした顔をしたビーデルだったが、すぐに微笑み、

「そうね。滅多に見れないもの、一緒に見たんだもの。幸せになれるに決まってるわ」

 そう言って悟飯の大きな手を握った。

「うん」

 悟飯もその手を握り返す。

 するとビーデルは笑みを崩さないまま、悟飯を見上げて切り出した。

「でもね悟飯君」
「うん?」

 見下ろすような形で悟飯はビーデルの顔を見た。

「ブルームーンを見なくても、幸せになる自信はあったけど?」

 悪戯な笑みを浮かべ自信満々に言うビーデルに、悟飯は目を大きくしたが、

「ハハハ、そうだよね」

 そんな強気な彼女が何よりも大事で、そして幸せにしたいと心底思った。


 ビーデルの左手の薬指には小さいけれど石の付いた指輪。

 ブルームーンを見なくても幸せになれる自信はある。

 絡めた指から伝わるお互いの気持ち。

 隣にいるだけでも幸せだから。

 それだけで幸せになれるから。

 かつてブルームーンを見たという彼の母親も、波乱万丈、いろんなことがあったけれど、今はとても幸せなのは知っている。

 幸せになろう。

 お互いに。一緒に。

 青い月は、夜道を歩く二人を見ていた。


 end

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