過去拍手SS

□Father's Day
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「なあ悟天。おまえ父の日のプレゼントって何するの?」
「父の日?」

 今日は土曜日。学校も休みということもあって、トランクスは早朝から西の都の自宅を抜け出してパオズ山の親友の家に来ていた。

 遊びに来た、というのが表向きの理由であるが、本音は父から逃げ出してきていた。

 親友・孫悟天の父、孫悟空が生き返ってから、父のトレーニングという名のしごきが酷くなったように思う。

 元々悟空を永遠のライバルだと思っている父・ベジータは、悟空が超サイヤ人3などという超サイヤ人を更に超えた存在になれると知ってから、それを超えようとトレーニングに拍車がかかるようになった。

 悟空が死んでから戦いから遠ざかったとは言えトレーニングバカ振りは健在で、一日の大半は重力室でのトレーニングで時間を使っているような父ではあったが……。

 そして悟空より強くなりたいという父の勝手な思いが何故だがトランクスにも向けられていた。

 悟空の次男・悟天が悟空と修行をし出してメキメキと上達していると悟空に聞いてから、ベジータはトランクスにも過酷なトレーニングを課すようになった。
 
 カカロットの息子なんかに負けるんじゃない。

 毎度口には出さなくても、その心の声が聞こえるような気がする。

 それまで父とトレーニングをすることはある種父と息子のコミュニケーションのような感覚もあり嬉しかったトランクスであったが、今のトレーニングは自分の身の危険をも感じるほどの過酷なものだった。

 学校のあるときは母・ブルマが立腹なのでベジータも無理強いをしない―出来ない―のだが、休みの日ともなると朝から引っ張り出して一日中トレーニング三昧だった。

 そんな状況にさすがのトランクスも辟易していた。

 なので何度か脱走を試みるも成功したのはほんの数回。しかし、帰宅すると罰のようなトレーニングが待っているのに、それでも脱走をやめられないでいた。

 今日は珍しく脱走に成功した。

 父もパオズ山まで―悟空がいるので―追いかけて来ないこともあり、のんびりとこの家の兄弟の部屋で寝そべって出されたお菓子を食べながらふと悟天に訊ねてみたのだった。

「悟天、今年が初めての父の日だろ?だから何かするのかな?って」
「うん。ぼくね、おっきなお魚とか木の実とかいっぱい取りに行くんだ」

 悟天は満面の笑みを浮かべて言った。

「おじさん、いっぱい食べるもんな。うちのパパもだけど」
「でしょ?だからね、食べものが一番うれしいかな?って思ったの」

 父が生き返って初めての父の日。悟天は本当に嬉しいのだろう、終始ニコニコと話している。

「ふ〜ん。ねえ、悟飯さんは何するの?」

 トランクスは机で勉強している悟天の兄・悟飯に声をかけた。

 悟飯はペンを置いて、座っている椅子ごと床で寝そべっているチビたちに向けた。

「僕はお父さんと修行するよ。普段付き合ってあげられないからね」
「おじさん喜びそうだよね。たまに悟天送ってうちに来たときにパパに捕まってるけど、悟飯さんと思いっきり修行したいって言ってるの聞いたよ」
「ハハ、お父さんには悪いことしてるって思うけどね、さすがに学校があるからね」

 悟飯は苦笑して言った。

「でも本気でやったら地球壊れちゃうんじゃない?」
「……だよなぁ……まあ、そこは手加減して貰うようにしなきゃね。お父さん調子に乗っちゃうと限度知らないからな……」

 悟飯は更に苦笑した。

「トランクスは何をするんだい?」
「それなんだよ!! 何していいのかわかんないんだ」

 トランクスは叫んで身体を起こした。悟飯も隣で寝そべっていた悟天も、びっくりして同じ顔で目を丸くしている。
 
「トランクス、今まで何あげてたの?」
「あげたことない」

 トランクスはきっぱりと答えた。

「へ?」
「そうなの?」

 トランクスの意外な言葉に、やはり兄弟は同じようにキョトンとした表情で同じように首を傾げた。

「だってさ、パパっていつもどこにいるかわかんなかったんだよ。今でこそ重力室にいることが多いけどさ、前はどっかの荒野だか火山口だかわけわかんないとこ行ったまんま何日も帰って来なかったりだったり、とにかく父の日に家にいたことすらなかったんだから。それにきっと父の日の存在も知らないよ」

 トランクスは握り拳を作って訴えた。

「……そっか……ベジータさんらしいな……」

 トランクスよりも以前からベジータという人間を知っている悟飯は苦笑するしかない。
 やはり同じサイヤ人ということもあり、強くなることと闘うことが何よりも好きな父と似ていることもあり、トランクスの気持ちもわかる。

 昔、自分も同じようなことを思ったことがあったのだが、父に何かをあげるより、一緒に修行することが一番喜ぶんじゃないかという悟りを啓いてしまった。

 しかしそれは人造人間が襲撃してくる前、一緒に修行をしていた時期に啓いた悟りなので結局何の役にも立っていなかったが……。

 なのであの頃は父の日には自分をピッコロに預かって貰い、父と母を二人っきりにすることにした。存外これも大いに喜ばれたのだが、何故か母が疲れきっているように見えたのは気のせいではなかったと今になってわかった気がする。

「最近休みのたんびにオレを重力室に閉じ込めるからね。だから明日も絶対にいるだろうし、こうして逃げて来ちゃったからしさあ……」

 何となくばつの悪そうな顔をする。
 一応、悪いことをしたという自覚はある。
 なので、お詫びをかねて父の日のプレゼントを贈ろうと思ったのだが……。

「じゃあ僕みたいに一緒に修行ってわけにもいかないのか」
「ヤダッ!! 最近のパパのトレーニングハンパないんだよっ!! 死んじゃうよっ!!」

 そう言えば何度か逃げて来たって言ってたけど……一体どんな修行をしてるんだ?と、悟飯は興味はあるのだが、何となく聞きたくない気もした。

「じゃ、じゃあさ、ベジータさんの好きなこととかものって?」
「……とにかく強くなること……」
「……だよね……」

 渇いた笑いしか出ない悟飯とは対照的に、悟天が嬉しそうに声を上げた。

「じゃあね、ぼくと一緒にお魚捕まえる?」
「魚?」
「うん!! パオズ山のお魚ってすっごいおっきいんだよ。だからおじさんのお腹もいっぱいになるよ」
「それだよトランクス」

 悟飯は突然何か閃いたように口を開いた。

「それ?」

 それってどれ? トランクスは首を傾げる。

「ベジータさんもうちのお父さんと一緒で食べるの好きだろ?だから悟天と一緒に食べるものを採ったらいいんだよ。パオズ山の魚は本当に大きいからね。庭で丸焼きにでもすればいいよ。それならトランクスも出来るだろ?」
「そっか!! それくらいならオレにも出来るよ」

 悟飯の提案にトランクスは大きく頷いた。


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