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□空を見上げて (DB)
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空を見上げて vol.14


「あり?」

 空から一粒雫が落ちてきた。

「雨か?」
 また一粒二粒、雨が落ちてくる。
 空を見上げると先程まで晴天だったのに、だんだん灰色の厚い雲が広がってきた。

「こりゃ本格的に降るな。今日はもう切り上げるか」
 空を読める悟空はこの雨が本降りになると見極め、このまま修行を切り上げ帰宅するために筋斗雲を呼んだ。

「チチィ〜けえったぞ〜」
 間延びする声でそう言うと家に入る。しかし返事はない。

「あり?町まで行ったんかな?」
 確か、食材が切れるので買い物に行くと言っていたような気がする。
 しかし傘立てを見ると、チチのお気に入りだという真っ赤な傘はそのままある。

「アイツ、傘持って行かなかったんか?」

 悟空は何やら考え込むと、そのままチチの真っ赤な傘を掴んで家を飛び出した。

 筋斗雲を呼んで空を飛ぶ。

 チチが傘を持って出なかったのであれば濡れているかどこかで雨宿りをしているはずだ。

 どこかで雨宿りをしていることを祈りつつ、チチを探す。

 雨に濡れないようにするならば上空を飛べばいいのだが、今は濡れているかも知れないチチを探すことが先決だ。
 悟空は普段読むことを禁じられているチチの気を、今は緊急事態だ、と自分の中で正当化して読みながら低空を飛ぶ。

 すると5分ほど飛ぶと、町への道の途中にある大きな木の下に見知った気配と存在を確認した。
 その存在は荷物を抱えて木の下で途方に暮れていた。

「チチィ〜」
「悟空さ?」
 チチは空から降ってきた声に顔を上げた。

 筋斗雲で降りてきた悟空は筋斗雲から飛び降りると、チチの抱えている荷物を受け取り、「ほら」と言って傘を差し出した。

「迎えにきてくれただか?」
「ああ。オラも雨が本降りになりそうだったから途中で切り上げて帰ってきたんだ」
「そうだっただか。ありがとな、悟空さ」
 チチは悟空から傘を受け取り嬉しそうに柔らかく微笑んだ。

 そんなチチの笑顔を見た途端、悟空の心臓がドクンと跳ねた。
 とても居心地が悪い。しかし、こんな顔をずっと見ていたいという感情。

 これが何だかわからない。とても矛盾していることはわかる。

「ごめんな。こんなに濡れちまって……」
 チチはハンカチを取り出し、悟空の顔を拭いた。

「ちょっ、くすぐってえからいいよ」
 本当は何だかドキドキが高まって、それをチチに気取られまいとして誤魔化したのだが。

 しかし、悟空が拒否したことによりチチの顔が曇る。

「そ、それに、オラこんくらい濡れたって平気だ。普段は滝に飛び込んだりもしてんだからよ」
 笑いながら明るい声で言うと、

「そんなことしてるだか。だから胴着がすぐにボロボロになるんだべな」
 クスッと笑うチチに悟空はなんだかホッとした。

「じゃ、帰るか」

 悟空はチチに渡した傘をチチの手から奪う。

「筋斗雲で帰るんじゃないのけ?」
 チチは悟空の行動を不思議に思い訊ねてきた。

「ま……せっかく持ってきたしさ……」 

 そう言って傘を差した。

 一瞬キョトンとしていたチチだが、クスッと笑い、

「筋斗雲で帰るのに傘必要ねえもんな?」
 チチは何かを含んだような、いたずらっ子のような顔で悟空の顔を覗き込む。

「な、なんだよ、今思いついたんだよ」
「そうだか」
 クスクスと笑うチチを、悟空は少し顔を赤らめながら横目で見る。

 傘を持って来たことも1本しか持って来なかったことも、別に何の深い意味はない。

 どちらかというと、雨が降っているのにチチは傘を持っていない。だから持ってきた。それだけのことで、そこから先のことなど深く考えなかった。

 別に二人で筋斗雲で帰ればいいだけのことだ。

 だけどここへ来たとき、何となくチチと相合傘で歩きたくなった。

 しかしそれを肯定するのは照れくさい。

「ほら、帰るぞ」
 照れ隠しにぶっきらぼうに言う。

「……んだっ!!」
 しかしチチは満面の笑みで悟空の隣に並ぶ。

「おらが傘持つべ」
「おう」

 悟空はチチに傘を渡し、二人で真っ赤な傘に入って歩く。

 それだけのことだけど、なんだか胸の奥にあたたかいものを感じる。

 いつも筋斗雲でチチの温もりを背中に感じて飛んでいるけれど、たまにはこうして並んで歩くのも悪くない。
 
 雨の降る中、二人で並んで家路を歩いた。


 end
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