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□空を見上げて (DB)
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空を見上げて vol.15


「降ってきちまったぞ」

 玄関を開けてそう言うと、「おとうさん、おかえりなさい」と幼い声が聞こえてきた。

「たでえま。悟天、母ちゃんは?」
「お買い物に行ったよ」
 ついて行くと言ったのだけれど、「勉強していろ」と制されたのだとリビングで鉛筆をくわえながら言う。

「あり?傘持ってってねえんじゃねえか?」

 傘立てを見るとチチの傘があった。

「父ちゃん、迎えに行ってくっから」
「ぼくもいくーっ!!」
「ダメだ。濡れたらまた風邪ひいちまうだろ?」
「えーっ」
「勉強サボったって怒られんぞ」

 悟空がそう言うと悟天は大人しくなる。チチの雷が怖いのは親子揃って同じだと、悟空は苦笑した。

 本当は連れて行ってもいいのだけど、人一倍丈夫なくせに一度風邪を引くと普段引かない分意外と症状が重い悟空と子供たちであるし、それに勉強を中断させたとなれば悟空に雷が落ちかねない。

「行ってくんな」
 チチの傘を掴んでそう言うと、「行ってらっしゃい」というシュンとした声が聞こえた。
 かわいそうなことをしたかな?と思うが仕方がない。

 チチの元へ瞬間移動しようとしたが、もし街中であれば騒動になるとチチに咎められる。
 とりあえずチチの気を探る。まわりに人はいないようだ。
 ならば許されるだろうと瞬間移動をすると、そこは新婚のあのときにチチが雨宿りをしていたあの場所。

「悟空さ?」
「迎えに来たぞ」

 悟空はチチの傍まで歩み寄る。

「また瞬間移動だか?」
「ま、緊急事態ってヤツだ」

 悟空がニカッと笑いそう言うと、チチは「仕方ねえな」と苦笑した。

「ありがとな悟空さ。助かっただよ」

 ニッコリと微笑んでそう言われると、途端嬉しくなる。

「さ、帰るか」
 悟空はそう言うとチチから荷物を受け取り傘を差した。

「あれ?瞬間移動で帰るんでねえのけ?……もしかして……悟天、家さ抜け出しただかっ!?」

 家に瞬間移動しないということは家に誰もいないということ。ならば勉強をして留守番をするよう言い渡した悟天は抜け出したということ。

 チチはそう思い、悟空の胸倉を掴んだ。

「ちげえって!! ちゃんと家で勉強してるって!!」
「ホントだか?」
「ホントだって!!」
「ならいいんだけんど……あの子、すぐに抜け出すから……」

 誰に似たのか悟天は勉強が好きな兄とは違い、どうにも勉強があまり好きではないらしい。勉強中に抜け出すということが幾度となく繰り返されている。その度に叱られているのにも関わらず、何度も同じことをする。

 大きく嘆息しながら嘆くチチの姿を見て、悟空は何故だか居たたまれないもの感じ、苦笑した。

「ま、とりあえず帰ろうぜ」
 傘に入れと促す悟空を怪訝に思いながらもチチは悟空の隣に並ぶ。

「一体どうしたんだべ?すぐに瞬間移動で帰るのに」
「たまにはいいじゃねえか?こうして相合傘で歩くのもさ」

 そう嬉しそうに言う悟空に、チチは年甲斐もなく赤面する。

 そして思い出す。新婚の頃、思いがけず傘を持って迎えに来てくれた悟空と相合傘で帰ったことを。
 もう二十年近く昔のことなのに、鮮明に思い出せる。

「昔もさ、こうして帰ったよな?」
 突然の悟空の発言にチチは目を瞠る。

「覚えてただか?」
「当たり前じゃねえか。忘れねえさ」
 
 悟空は優しげにチチを見下ろし微笑んだ。

 くっつかれたことなど何度もあったのに、こうして触れるか触れないかの距離で並んで歩くだけで胸が高鳴った新婚のあの頃。
 今は自然に並んで歩くことも触れることも出来る。

「じゃあおらが傘差すべ」
「おう」

 あのときと同じ。荷物を悟空が持ち、チチが傘を差す。

「今度は確信犯だか?」
「なんだ?それ」
 キョトンとした顔でチチを見下ろす。

「傘、1本しか持って来なかったの、狙ってただか?」

 あの頃と変わらないいたずらな笑顔でそう言うチチに悟空はニカッと笑い、

「そういう意味か。そうだぞ。相合傘しようと思ったんだ」
 照れもせずに言い切った。

 聞いたこちらが照れそうになる。

 こういうところにあの頃とは違うところが窺える。

 でもチチは少し顔を赤らめて嬉しそうに微笑んだ。


「止みそうにねえなぁ」

 悟空が空を見上げてそう言うと、チチもそれに倣った。

「明日の修行はお休みだか?」
「そだなぁ……休んで悟天と遊んでやっか」
「あの子喜ぶだよ」

 チチが微笑んでそう言うと、

「オメエは?」

 悟空が何やら期待に満ちた顔で見下ろしてきた。

「おら?そうだなぁ……洗濯物が減るからな。ただでさえ雨で干せないのに増やされるとたまんねえもん。だから嬉しいだよ」
「ちぇっ」

 素直じゃねえなぁ。そう呟いた後、二人して笑った。

「早く帰らねえと悟天が腹減ったって騒ぐかな?」
「腹減ったのは悟空さの方じゃねえのけ?」
「ま、そうだけどよ。悟飯のヤツももう帰ってっかな?」
「グレートサイヤマンの出動がなけりゃ帰ってるだよ」

 そしてもう一つ、あの頃と違うところ。
 
 自然と子供たちの話になること。

 二人で並んで、子供たちの話をして。それがどれほど幸せなことであるか。

 悟空とチチは子供たちが待つ家へと、相合傘で並んで歩いた。


 end
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