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□空を見上げて (DB)
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空を見上げて vol.17
兄に貰った筋斗雲。
元は死んだ父のものだったらしい。
悟天は筋斗雲の上でゴロンと寝転んだ。
空を見上げ、手を伸ばす。
今よりもっともっと小さい頃、兄に筋斗雲で飛べば、死んだ父の元へ行けるか聞いたことがある。
そのとき、一瞬兄の顔が曇った。
そして何度も何度も『ごめんね』と言った。
その顔がとても気になって、天界に住む兄に師匠にも同じことを聞いたが、答えは『否』だった。
でも今は会えないけど、『そのとき』が来れば会えるのだと教えられた。
『そのとき』それは死んだとき。
それまで会えない。
―ねえおとうさん。ぼくのこと知ってる?
悟天はこの空のもっともっと遠くにあるというあの世にいる父に問いかける。
この地球を守って死んだ父。とても偉大で、強くて優しかったという父。
話に聞くしか父を想像することは出来ない。だから、一度でいいから会ってみたいと思う。
「ねえ、筋斗雲はおとうさんのこと、ずっとずっと昔から知ってるんだよね?」
もちろん返事はない。でも代わりにかすかに揺れた。
「いいな……ぼくもおとうさんに会ってみたいよ……」
そんな悟天の呟きに、筋斗雲は上空に上がりだした。
「筋斗雲?」
何の命令もしていないのに筋斗雲は上へ上へと上がる。
しかし暫くして動きを止めた。これ以上行けないということだろうか。
「……筋斗雲……おとうさんのところへ連れてってくれようとしたの?」
それは気休めでしかない。だけど、その気持ちが嬉しかった。
「ありがと。でもね、ぼくちゃんと知ってるよ。筋斗雲でもおとうさんに会いに行けないって知ってるよ」
すると、筋斗雲は申し訳なさそうに揺れた。
「ごめんね。ぼく大丈夫だよ。いつか会えるって知ってるから。筋斗雲もおとうさんに会いたいのに、がまんしてるんだよね?」
筋斗雲は少しだけ、ピクッと動いた。
悟天には何となくだけど、それが肯定のように思えた。
「筋斗雲でもがまんしてるんだもんね。ぼくもがまんするよ。でもね、どうしても会いたくなったらね」
悟天は筋斗雲にしがみついた。
「筋斗雲とここまでくるよ。だから、また連れてきてね」
筋斗雲は優しく揺れた。
そんな悟天と筋斗雲に、吉報がもたらされるのは、もうしばらく後―。
舞空術で空を飛べるようになってから、筋斗雲で飛ぶことは少なくなった。
でも何となく、筋斗雲で飛びたくなって久しぶりに呼ぶと、筋斗雲はその名を呼ばれることを待っていたかのように猛スピードで降りてきた。
悟天は筋斗雲に飛び乗ると、そのフワフワの背中に頬擦りをした。
「ごめんね。ぜんぜんかまってあげなくて」
すると筋斗雲は『気にしないで』と言っているかのように揺れた。
空高く飛び、筋斗雲を止め、その背中に寝転ぶ。
この雲に乗るようになったのは物心つく前。兄の膝で地上の我が家を眺めたりした。
生まれる前から家族だったこの雲。母よりも、父との付き合いが長いというこの雲。
この雲に乗っていると、父の優しさに包まれているような気分だった。
空を見上げ、そして目を瞑る。
「気持ちいいね〜」
すると筋斗雲が揺れた。きっと肯定の意味だろう。
でもこの揺れがゆりかごのようで、心地よさが更に増す。
すると、よく知った気が近付いてきた。
「ごてーんっ」
「おとうさん?」
悟天は身体を起こし、筋斗雲から下を覗く。
父が家の方から舞空術で飛んできた。
「こんなトコにいたんか?母ちゃん、悟天がいなくなったって心配してたぞ。また黙って出てきたんか?」
「えへへ。ごめんなさい」
父は筋斗雲の上に乗り、座った。
「筋斗雲の上で昼寝か」
「気持ちいいんだよ」
「父ちゃんも昔はよくやったぞ」
「ホント?」
「ああ。なあ?筋斗雲」
父が問いかけると、筋斗雲が大きく揺れた。
「ほらな」
「ホントだね」
笑い合う親子に、筋斗雲も一緒になって揺れる。
「悟天、こっち来い」
「うん」
父が悟天を抱き上げると、自分はそのまま筋斗雲に寝転び、悟天を自分の身体の上に寝かせた。
「兄ちゃんがオメエよりちっせえときな、よくこうして昼寝したんだぞ」
「へえ〜」
父の胸にしがみ付き、悟天は目を閉じる。
「おとうさん、筋斗雲といっしょだ」
「そっか?でも父ちゃんの身体は硬いだろ?」
「うん。だけどいっしょなの」
上手く言えないけど。
「そっか」
父は優しく微笑み、目を閉じた。
上手く言えないけどね。お父さんも筋斗雲も一緒なんだ。
こうして抱っこされてるとね、とても安心するの。
end