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□空を見上げて (DB)
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空を見上げて vol.24


「なあ神様。この空のもっともっと上ってさ、一体何があるんだ?」

 ピッコロ大魔王を倒し、神殿の神の下で修行をしている悟空は、かねてから聞いてみたいと思っていたことを口に出した。

「この空のもっと上か?」

 神殿の縁で空を見上げて、悟空は「うん」と首肯した。

「この空のもっと上はな、宇宙だ」
「うちゅう?」
「そうだ」

 神の発した言葉を繰り返し、悟空は視線を神に向けた。

「この空の向こうは無限に広がった宇宙が存在する」
「無限?」
 首を傾げる悟空に神は説明する。
「限界のない、果てのないということだ」
「それってとにかく広いってことなんか?」
 尚も聞いてくる悟空に神は重ねて説明する。
「そうだ。宇宙とはな、それはそれは計り知れない、果ての全くわからない空間なのだ」
「?よくわかんねえ」
 悟空は更に首を傾げた。
 そんな悟空に神は苦笑した。

「まず、この地球はな、宇宙に存在する星々のうちのひとつでしかない」
「地球って、あの空にある星と一緒なんか?」
 地球が空で輝くあの星々と同じだと言われても悟空にはさっぱり理解できない。

「そうだ。あの空にある星も、この地球と同じくらい、それより大きな星だったりするのだ」
「いいっ!? 地球ってすっげー広いぞ。それよりデカイんかっ!?」
 悟空は大袈裟に仰け反った。
 しかし大袈裟に驚いているように見えるが、当の悟空にとっては全く大袈裟ではなく。
 そんな悟空に神は苦笑して更に話を続ける。
「地球など全く敵わないほどの大きさの星もある」
「へえ。まだまだすげえことがあるんだなぁ」
 目を瞠って、感心したような悟空に神は微笑んだ。

「あの星々は光っておるだろう。あの星の光は何万年も前の光なのだ」
 神は空を指差した。
「意味わかんねえよ」
「まだ難しいかもな。しかし、宇宙というものは、あの星の光がこの地球に届くまでに何万年もかかるほど広いということなのだ」
「よくわかんねえ」
「それほど広い宇宙だ。地球人のような生物が他にもいる」
「他にもいるんか?」
「それはいるぞ。しかし、そんな広い宇宙で違う星の生物と出会うということは、本当に奇跡なのやも知れんな」
 神は目を細めて空を見上げた。

 何か思いを馳せるように空を見上げる神を、悟空は不思議な心持ちで見ていた。


 まだ神殿で修行していた頃、そんな話を神様としていたことを思い出した。

 あの頃は宇宙というものがどんなものであるか想像も出来なかった。
 
 しかし今、悟空はヤードラットという地球とは違う異星にいる。

 
 ゴロンと寝転び、空を見上げる。

 夜空に浮かぶ星々は地球で見るものと同じだ。

 かつて神は『違う星の生物と出会うということは、本当に奇跡なのやも知れんな』と言った。

 しかし、そんな奇跡は悟空の元で起こっていた。

 悟空は地球人ではなく惑星べジータという星で生まれたサイヤ人という異星人だった。
 赤ん坊の頃、地球に送られ、祖父に拾われた。

 それに神様も、その半身のピッコロもナメック星人だった。
 奇跡だと言った神自身が地球にとっての異星人であった。

 不思議だと思った。

 ここにいることも、自分も神も異星人であることも。

 そんな自分が、地球人であるチチと出会い、結婚し、子まで成したことも。


『だがな悟空。同じ地球に生れ落ちたとしても、今まで出会った者たちとの縁というものも、実は奇跡なのだぞ』
『奇跡?』
『この地球には幾億人もの人間がいる。その中の一人と出会うということはそれだけの確率をもってして出会ったということだ』

 あのとき神はこうも言った。

 奇跡とはどういうことかよくわからなかったけれど、自分が地球人ではないと知った後、何となくそのことがわかったような気がした。

 パオズ山を出てからいろんな人に出会った。
 あの出会いはパオズ山から出なかったら無かったこと。
 


 今は遠くの地球に思いを馳せる。

 絶対に帰るから。待っていてくれ。

 ここでの修行は絶対に役に立つ。そのために帰ることも我慢して修行をしている。

 チチと悟飯に会いたい気持ちをも胸の奥に押し込めて、早く帰るために修行をする。

 違う星に生まれながらもこうして結ばれたのだから、どんな奇跡だって起こせる。

 本来ならば決して交わることの無かった縁が、こうして結ばれ形を成した。
 
 奇跡と言っても過言ではない。

 だけどこうなることは決まっていた。神はあのとき奇跡だと言ったけれど、悟空には必然だと思えた。

 こうなることは必然。地球に落とされ、祖父に拾われ、ブルマに連れ出され、仲間に出会い、チチと結ばれ悟飯が生まれた。

 これは運命。

 運命で結ばれた愛しい家族の顔を思い浮かべる。

「早く会いてえけど……仕方がねえよな……」

 自分で決めたことだ。ここに残って修行すると決めたのは誰でもない自分だ。
 会えなくて嘆く権利などどこにもない。

 それよりも早く技を習得すれば、それだけ早く帰れる。

「……待っててくれ。ぜってえに帰るから」

 悟空は遠い遠い地球に思いを馳せ、呟くように宣言した。
 

 end
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