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□空を見上げて (銀魂)
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空を見上げて(銀魂)vol.4 快晴


 いつもの公園のいつものベンチに腰掛け、空を眺めた。

(いつになったら雨は止むアルか)

 今日はすこぶるいい天気なのに、そんなことを思うなんて。

 ラジオ体操で友達になった少年が倒れてから、神楽に晴れの日は訪れていない。

「……おい」
 ボーっと空を眺めていると、不意に声をかけられた。
 声のした方に目を向けると、そこには真っ黒い制服を着た、亜麻色の髪の男。

「……なんだ、お前アルか」
 途端、しかめっ面になる。
「なんだってなんでえ?」
 挑むようなその男の声音に、神楽は思わず立ち上がり仁王立ちになった。
「やるアルか?」
「おう、いい度胸じゃねえかィ?」
 ニヤッと笑う男の顔を見ると、神楽は何だかいたたまれなくなった。

「……やっぱやめとくアル」
 神楽はそう呟き、その場を立ち去ろうとした。

 神楽は自分では意識していなかったけれど、近頃はこの男・沖田との喧嘩を楽しみにしている自分がいた。
 神楽を見かけると何かとちょっかいをかけてきて、神楽もムカッときながらもいつもこの傘と沖田の剣を交えていた。
 それが沖田とのコミュニケーション。
 だけど今はそんな気分になれない。いや、なってはいけない。

 ラジオ体操で友達になった本郷尚は神楽が約束を破ったことにより倒れたのだと神楽は思っている。

 元々身体が弱く、それでも何かをやり遂げて生きた証を残したいと思っている尚は、神楽との約束がなくてもあの雨の中ラジオ体操に行くつもりだったと神楽に告げたが神楽の心は晴れない。

 雨の日は不戦勝だという銀時の言葉。神楽は尚が戻ってくるまで雨はやまないのだと尚に告げた。

 それから毎日毎日ラジオ体操に通った。
 期間が終わって皆勤賞を貰っても、神楽はラジオ体操に通い続けた。
 そのうち銀時や新八や妙が混ざり、顔見知りが増えていった。
 そして気が付けば、かぶき町の住人がたくさんいた。

 でもその中に、まだ尚の姿はない。


 神楽は少し空を見上げた。

 明日こそ、晴れたらいいのに……。

 そんなことを考えてトボトボと歩く。

「なあチャイナ」
 先程別れたと思っていた沖田の声がすぐ背後から聞こえた。
 神楽はボーっとしながら歩いていたせいか、沖田がすぐ背後まで来ていることに気が付かなかった。
「なにアルか?」
「何かあったのかィ?」
「……別に……何もないネ」

 神楽は素っ気無く答えると、そのまま立ち止まらずに歩みを進める。

 何となく、沖田の声音が優しく感じた。
 それだけで、神楽の心は潰れそうになった。

 今頼りたいのは銀時でも妙でも新八でもなかった。
 いつも顔を合わせれば喧嘩ばかりして、それだけで何だか元気になれる沖田だった。

 自分でも何故そう思うのかわからなかった。だけど、沖田と剣を、拳を交えることがとても心地いいとさえ思っていたから。

 

「おいチャイナ」
 俯き歩く神楽の耳に、いつもより優しい沖田の声が響く。

「……なにアルか?」
 何となく振り向けずにいると、沖田が言った。
「……きっと、晴れるぜィ」
「……何言ってるアル。今日はいいお天気ネ」

 コイツ、なんか知ってるアルか? 銀ちゃんが言ったアルか?

 何となく弱みを握られたようで、何だか気分が悪い。

「止まない雨はないって言うだろ?」
 でも、いつもならこれを機会に攻撃してくるだろう沖田の言葉は、意外にも神楽が欲しいと思った言葉だった。

 そして沖田は重ねて言った。

「俺だって、早くお天道様が見たいんでィ」

 その言葉に思わずハッとなり歩みを止める。そして振り返るとそこにはいつもと違った優しげな表情の沖田がいた。

 止まない雨はない。

 優しげだけど、自ら発したその言葉に自信を持っているかのような沖田の瞳。
 その顔を見たとき、何だか心が軽くなったように思えた。

「当たり前ネ。雨は絶対にやむものネ。お天道様はすぐに出てくるネ!!」 
 傘を閉じて、それを持つ手の力を強めると、挑むような目を沖田に向けた。

「気が変わったネ。やっぱりお前とは決着付けないといけないネ」
「そうこなくっちゃ」

 不適に笑う沖田の剣から鯉口を切る音が聞こえた。
 それを合図に、神楽も口角を上げ、傘の石突を沖田に向けた。


 止まない雨はない。
 
 そんな当たり前のことも忘れかけていた。

 コイツに教えられたのは癪だけど、それでもコイツでよかった、なんて思える自分もいた。

 きっともうすぐ。

 本当のお天道様が顔を出すはずだ。


 end
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