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□空を見上げて (銀魂)
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空を見上げて(銀魂) vol.7 曇天


 日輪が晴太におもちゃを買ってやりたいと言うので、月詠は買出しを買って出たのだがどんな物がいいのかわからなかった。
 なので銀時にどんなものがいいか相談すると、
『じゃあ、俺が買いに行くの付き合ってやるよ』
 そう言われたので、月詠はその言葉に甘えた。
『ホントは依頼料取るけどよ、晴太のだし、知り合い価格として特別にタダにしてやらぁ』
『そりゃあすまないねえ』
 そう返すも、何だか胸の奥がチクリと痛んだ。
『知り合い』
 銀時から発せられたその言葉。月詠の胸が痛んだ原因だった。


 電気屋で今若者の間で流行ってるというゲーム機を買い、店を出た。
 このまま帰るのもどうかと思った。
「なあ、銀時……」
「ちょっとすまねえ」
 今日の礼にお茶でも、と思い口を開いた途端、銀時は何かを見つけたのか、月詠に一言謝ると人ごみを掻き分けて走って行った。
「銀時っ!?」
 月詠も銀時の後を追い、人ごみを掻き分ける。
 そして人ごみの中に銀髪を見つけ、
「銀……」
 声を掛け損なった。
 銀時は黒髪の女に声をかけている。
(あれは新八の……)
 銀時の表情はこちらに背中を向けているのでわからないが、その女・妙は笑みを浮かべて銀時と何やら話している。
 しかし、その笑みに妙な違和感を感じた。
 何となく、無理しているように思えた。

「いやだわ銀さん。何故私が怒らないといけないのかしら?」
 すると、妙は月詠の存在に気付いたように、
「あら?月詠さんもご一緒だったんですね。ごめんなさい、お邪魔したみたいになって」
 申し訳なさそうに。だけどニッコリと笑って言った。
 誤解しているようだ。この二人がどういう関係かは知らないが、妙は月詠と銀時との関係を誤解している。
「いや……わっちは……」
 違う、と言おうと思ったが言葉にならなかった。
 月詠と銀時を交互に見る妙の顔は、笑みを湛えてはいるが何だか苦しげに見えた。読者人気投票のときに月詠を巻き込んできた強気なあの女の顔ではなかった。
 あの女と同じ女なのか?
 そんな感想をも持ったほどだった。
 それから銀時と妙は『怒ってる』『怒ってない』の言い合いを繰り返している。
 銀時も銀時で彼女の微妙な違和感に気が付いているようだ。
 月詠にしても同じ女だからこそ気付く違和感であったし、以前に顔を合わせたときの妙を知らなければこの違和感も感じなかっただろうと思えるくらいに完璧な笑みなのに。
 銀時はそんな妙の違和感を感じ取っているのだ。
 何だか、妙な疎外感を感じた。

「デートなさってるんじゃないんですか?なのに他の女に声をかけるなんて、男の風上にも置けませんよ?」
「デートじゃねえよ」
 何故だか胸が疼いた。
『知り合い』と言われたときと同じ胸の痛み。
「でも月詠さんのことをほったらかしにするのはよくありませんよ」
 妙がだんだん本当に怒っているように見える。
 月詠は居たたまれなくなって切り出した。
「銀時、わっちはこれで。今日はすまなかったな」
「ああ。じゃあな」
 何の躊躇もなく、銀時は言った。
「月詠さん……」
 何だか申し訳なさそうな妙の声が聞こえたが、月詠は妙に微笑みかけ、その場を立ち去った。

 ああ、そうか。
 月詠の中にストンとある真実が落ちてきた。
 この人ごみの中、銀時は妙を見つけ出した。
 妙の微妙な違和感も感じ取っていた。
 きっと、自分との仲を疑われたくなかった。

 そういうことか……。

 月詠は紫煙を吐き出した。

 暫く歩いて月詠は肩越しに振り向く。

 銀時と妙は二人して柔らかく笑っている。

 銀時のあんな顔、見たことがなかった……。

 慈愛に満ちた瞳。

 そして二人は肩を並べて、そして手を繋いで月詠とは反対方向へと歩いて行った。

 月詠は空を見上げた。

 霞む視界を誤魔化すように。
 
 そこには、少し曇った灰色の空が広がっていた。


 end
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