series

□空を見上げて (銀魂)
9ページ/9ページ

空を見上げて(銀魂)vol.8 雪片


「あら?」
 妙が万事屋の玄関を開けると意外にも静まり返っていた。
 今日はクリスマス・イブ。
 万事屋の面々はケーキ屋の臨時バイトの依頼で遅くなるということもあり、クリスマスパーティーもついでに妙が仕事が終わる頃にしようということだった。
 今日は運良く早めに帰ることは出来たのだけど、それでもそんなに早い時間ではない。万事屋の三人ももう既に帰っているはずだというのに物音一つしない。
 だけど施錠がされていないのだからいるはずなのだが。
「お邪魔しますよ」
 勝手知ったる他人の家。妙は一応おざなりに声をかけて、返事のない家へ勝手に入った。
 そして部屋を覗くとソファーの上で毛布を被って寝ている新八と神楽の姿が見えた。
「寝ちゃったの?」
 今日の仕事は相当疲れたのだろうか?子供たちはすっかり夢の中らしい。
 一応パーティーは待っていてくれたらしい。ケーキは箱に入ったままでテーブルの上に置かれている。
 遅くなって申し訳ないことをした。でもケーキを食べたいのに我慢して、必死で眠気と戦っている二人の姿を想像すると何だか嬉しくなった。
「そう言えば……銀さん?」
 主である銀時の姿がない。
「どこに行ったのかしら?」
 そう呟いてまわりを見回すが銀時の気配すらない。
 妙は首を傾げながら、とりあえず新八が寝ているソファーに腰を下ろす。
 そう言えばこの毛布……。
「銀さんがかけてくれたのかしら?」
 ちゃんと肩までかけられた毛布。今日は疲れたのだろうか。新八も神楽も本当に気持ち良さそうに寝ている。
 シーンと静まり返った万事屋。いつもなら銀時と新八と神楽の時には楽しげで、時にはただ単にやかましい声が響いているのに。今は何だかすごく静かだ。
 妙は新八と神楽の寝顔を眺め、それから一人部屋を見回す。
 こうして見てみると、意外と細部まで見ていなかったことに気付いたり。
 そんなことを考えながら銀時が帰ってくるのを待った。

 どのくらい時間が経ったのだろう。玄関の開く音が聞こえた。
「銀さん?」
 妙は玄関まで行くと銀時は口元までマフラーを巻き、寒そうに肩をすくめていた。その手にはコンビニの袋。
「あれ?お前……もう来てたの?」
 銀時は妙の存在を確認すると、不思議そうに、普段はやる気の無さそうなその目を瞠った。
「ええ。ゴリ……いえ近藤さんがいらして、ちょっとおいたが過ぎたのでおしおきしたら店長に泣きながら帰れって言われちゃって」
 ニッコリと笑いながらそう言う妙に、銀時は薄ら寒いものを感じた。
(ぜってー半殺しにしたね。店ん中半壊にしかけたね。んでもって店長泣かせたね)
「なにか?」
 妙は先程の笑顔にどす黒いものを湛えている。
「……何もないです……てか、それっていつ頃?」
「そうね……1時間ほど前かしら?」
 妙は時計を見て言った。
「だからか……」
 銀時はそう呟いて小さく溜息を吐いた。
「どうしたの?銀さん」
「いや、なんでもねえ」
 銀時は少し苦笑しながら部屋に入った。
「よく寝てんなあ、おい……コイツら起こすか?」
 すっかり夢の中の子供たちを見て、銀時は面倒くさそうに言った。
「まあいいじゃないですか。寝かせておいて下さいな。そう言えばこの子たちいつから寝ていたの?」
「俺が出る前だから……1時間くれえか?」
「そう……って銀さん、どこ行ってたの?コンビニに1時間?」
「あー……まあ……」
 何か言いよどんでいる銀時。
 妙は何となく、もしかして……と思い、言ってみた。
「……もしかして……迎えに来て下さったの?」
「……迎えに行ったとか……じゃなくてだな、ほら、朝のいちご牛乳を切らせてたことに気が付いてだな、コイツらも眠っちまったし、コンビニでも行こうかなあって思ったついでにだな……」
 何だかしどろもどろになっている銀時に妙は思わず笑みがこぼれる。
「何だよ?」
 少しすねたような言い方の銀時に更に破顔する。
「いえ……きっと銀さんがコンビニに入っているときにすれ違っちゃったのかしら?」
 銀時がコンビニにいるときに妙が店を出て万事屋に向かっていたのだとすればそういうこともあるかも知れない。
「寒かったでしょ?ごめんなさい」
 申し訳無さそうに妙が言った。
「……別に……ついでだし、そんなに長く待ってたわけじゃ……」
 今日はイブだから妙が早く帰れるわけはない。だけど新八も神楽も寝てしまったし、このまま一人でボーっと待っているのも何となく手持ち無沙汰……というわけでもなかったが、どうにも落ち着かなかった。
 だから何となく家を出てコンビニに向かった。とりあえずいちご牛乳でも買って、ついでにちょっとばかり覗いてみよう……そんな気持ちだったのだが、気が付けば結構な時間待っている自分に気が付いた。
 またも何となく馬鹿らしさと気恥ずかしさからその場を後にし、家に帰ると既に妙がいた。
(見事にすれ違っちまったよな)
 小さく嘆息しながら妙を見ると、申し訳無さそうにしながらも何となく嬉しそうにも見えた。

 会えなかったけれど、銀時が迎えに来てくれたという事実だけで、妙の心は温かくなった。
 会えなかったのに。それでも嬉しい。

「本当にありがとうございます……」
「……結局すれ違ってるしさ……」
 ガシガシと照れくさそうに頭を掻く銀時を見て妙は微笑んだ。

「おい、外」
 照れくさい気持ちを誤魔化すために窓に目を向けた銀時は、あることに気が付き声を上げた。
「え?」
 妙が窓の外を見ると、ひらひらと雪が舞い落ちている。
「雪だわ」
 嬉しそうに窓にへばりついて雪を眺める妙を見て、銀時は口角を上げた。
「なんですか……?」
 銀時の視線に気が付いた妙は少し照れくさそうに言った。
「別に」
 そう言って妙のすぐ隣に立った。
「ホワイトクリスマスだなあ」
「ええ……」
 今にも触れそうな距離で並んで立つ。それだけで妙の心臓は高鳴った。
 だけどそれ以上にこの人の隣はあたたかい。

「ねえ銀さん」
「ん?」
「来年もパーティーしましょうね?」
「ああ……てかパーティーになってねえぞ?こりゃ」
 ソファーで眠っている新八と神楽に視線を移す。
「ええ……でもいいの」
「そっか?じゃあやっか」
「はい。そのときは新ちゃんも神楽ちゃんもちゃんと起きてて貰わないとね」
 妙がニッコリと笑うと、銀時も口角を上げた。

 そして少しだけ。ほんの少しだけ、妙は銀時の方に身体を傾けた。
 触れない程度に。でも少しでも近くに銀時のぬくもりを感じるように。

「でも、ホワイトクリスマスなんてすごいわ」
「だなあ。なかなかないぞ」
 二人は雪が舞い落ちる空を見上げる。
「それだけ寒いってことですもんね。お燗でもどうですか?」
「いいねえ〜早く早く!!」
 ウキウキとしながら急かす銀時に妙は思わず顔を苦笑する。

 雪が降るほど外は寒いのに、ここはこんなにもあたたかい。
 この人が隣にいるだけで、こんなにもあたたかく感じる。

 また来年も、この温もりを感じていられますように―。

 舞い落ちる雪に、そう願った。


 end
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ