雨の日の唄

□雨の日の唄1〜30
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雨の日の唄23


「よく降るべ……」

 窓の外を見て独り呟いた。

 しとしとと小雨が降り続き、この、かつて火に覆われていた土地を潤してくれる。


 もう、フライパン山と呼ばれるような場所ではない。


 師匠と娘婿のお陰で、この土地は平和を取り戻した。

 恵みの雨で潤い、農作物がよく採れる肥沃な土地。

 人々も穏やかで、皆が仲良く暮らしている土地となった。


 かつての自分は悪行の限りを尽くした。


 それなのに、今とても穏やかに、平和に暮らしている。

 これも自分の娘と娘婿、そして孫達、師匠にこの土地の人々、自分に関わった全ての人々が自分を許してくれた結果なのだ。

 これでいいのだろうか?と、かつての悪行に身を切られる思いもまた存在する。


 自分は救われてもいい人間なのか?


 こんな雨の日はそんな気分になる。

 普段は好々爺のような自分に、雨はかつての悪行を思い起こさせる。


 雨に紛れて人を切り、金品を強奪した事もあった。

 でも、後に娘婿となる少年の出現が、自分を戒め、改めさせた。

(あの時から、あの二人の運命は決まってたんだべか?)


 一途に初恋の少年を想い、その想いを遂げる為だけに武術に勤しんだ愛娘。

 生まれながらの才か、みるみる上達し、天下一武道会の本戦にまで残る程の実力を身に付けた。

 そして想いは遂げられ、紆余曲折を経て、今現在幸せに暮らしている。

「……久しぶりにアイツらの顔が見たいけんど、家族団欒を邪魔しちゃなんねえな……なあ、おっ母?」

 自分の胸の奥にいる、既にもの言わぬ妻に話しかける。

 娘はだんだん妻に似てきた。いや、娘は妻が死んだときの年齢をとうに超えた。

「…・・・おっ母……アイツらを守ってくれな」

 すると妻がニッコリと微笑んだ気がした。


 end
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