雨の日の唄
□雨の日の唄61〜90
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雨の日の唄69
「結局何だったんだ、カカロットのヤツ…」
「何だったのかしらねえ?」
自分の腕にその細い腕を絡ませながら、妻は自分を見上げて意味ありげな笑みを浮かべて言った。
「…何だ…?」
「べっつにー。チチさんが羨ましいなぁ…なんて思っちゃいないわよ?」
そしてニッコリと微笑む。
「…何が言いたい…?」
「だから、別になんでもないってば。」
その顔は何か強請ろうとしている時の息子の顔によく似ていた。
「…。」
「…。」
その沈黙が妙に重々しい。
ふと妻の方を見やると、何か拗ねたような顔に変わっていた。
「…何だ…?」
「…何でもないってば…。」
そう言ってそっぽと向く。
…まったく…自分いどうしろと言うのだ。ただでさえトレーニングを休めという願いは聞いてやったのだ。他にどうしろと言うのだ?
本当はわかってはいるのだが、そんな事、断じて言うまい。言うものかっ!!
それもこれもカカロットのせいだ!!ここまで来て余計な事を言い出すから、妻まで変な期待をしてしまったではないか!?
妻の機嫌はどんどん悪くなっているようだ。
でもこんな事言えるはずはない。戦士たる者、こんな事はそう易々と言うものではない。
女という生き物は厄介だ。すぐに言葉して欲しがる。
こうして共に暮らして、生きてるだけでは物足りないものなのか?
「まいっか。ベジータがここにいてくれるだけで十分だわ。私達は孫君とチチさんみたいに何年も離れ離れになってはわけじゃないもの。アンタがここにいるってだけで十分。」
妻はそう言って自分の肩にもたれかかってきた。
「…フン…。」
自分は返事の代わりに、いや、きっとこれからも紡ぐ事のない言葉の代わりに、その細い身体を抱き寄せた。
end