雨の日の唄
□雨の日の唄61〜90
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雨の日の唄70
悟天とトランクスはキャンプ場の傍にある池で遊んでいる。
僕はそれを監督という、とって付けたような立場でボーっと見ている。
ま、あの二人はよっぽどの事がない限り危険な事はないけど、あの二人こそ何よりも危険だよな…。
ここでアイツらの言う対決ごっこが始まってしまったら、それは大変な事になるだろう。
でもブルマさんの作ったカプセルだったらそれなりの耐久性はあるか。
なんて事を考えながら二人を監督する。
それでも気になるのはビーデルさんの事。
何であんなにイライラしてたんだろ?
全然思い当たらないから困った。本当に困った。
こんなにもビーデルさんに嫌われる事を恐れている。
(どうしたもんかなぁ……)
そう嘆息し、擬似的な空を見上げる。
この空は澄み切った青空だけど、僕の心はさっきカプセルの外に出た時に広がっていた、雨空だ。
「悟飯君」
ふいに声をかけられた。
「……ビーデル……さん……?」
振り向くとビーデルさんが立っていた。
ビーデルさんは僕の横に来ると、しばらく僕を見下ろしていた。(見下ろすというより睨まれていたような感じだが。)
「あ、あの……」
呆然とする僕の横に腰を下ろすと、
「私、悟飯君にお願いがあるんだけど!!」
突然切り出した。
「え……? は、はい、何でしょう……?」
何となく、ビーデルさんの勢いに気圧されてしどろもどろになった。
「あ、あのね……」
ビーデルさんは珍しく歯切れが悪い。
「お、おばさんにね…」
「お母さんですか?」
お母さん?どうしてお母さん?
「……ええ……おばさんにね……お料理をね……」
「料理?」
「習いたいのよ……」
ビーデルさんがお母さんに料理を?
「……だから……お願いしといて欲しいんだけど……」
ビーデルさんが家に料理を習いに来るって事?
「え、ええ!! もちろんですよ!!お母さん、ビーデルさんの事好きだから、絶対に喜びます!!」
もちろん僕も好きです……なんて言葉は言えなかったけど……。
「そ、そう?じゃあお願いしていいかしら?」
ビーデルさんはちょっとはにかみながら言った。
「はいっ!!」
すごく嬉しかった。ビーデルさんが家に来てくれる事も普通に話しかけてくれた事も。
今朝の事なんてもう頭から離れて行ってしまうような心持だった。
いつか来るだろうその日が来る事を、僕は心待ちにしていた。
end