雨の日の唄

□雨の日の唄61〜90
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雨の日の唄76


 まだしとしとと降り続く雨音を、ソファに横になって聞く。

 チチの膝枕は最高に気持ちいい。

 その上、この雨音が更に眠気を誘う。

 そして髪を撫でるチチの手の温もり。

 ……最高だなぁ……。

 そう思う。


 いつもは修行修行で、こんなのんびりとした時間を味わうことは滅多にない。

 昨日だって修行はしていないが、子供たちがいないことをいいことにやりたい放題。

 チチに負担をかけてばかりだ。


 でもこうして、夫婦二人でのんびりするなんていつ以来だろう。

 新婚の頃は当たり前だった二人だけの時間。

 そのうち悟飯が生まれて、悟飯中心の生活になった。

 生まれたばかりの頃は、とにかく赤ん坊というものは大変だという感想を絶えず思っていたように思う。

 確実に二人っきりの時間は無くなり、とにかくいつでもどこでも悟飯だった。

 ちょっとした寂しさもあるのはあった。この間まで『悟空さ悟空さ』だったのが、あっという間に『悟飯ちゃん悟飯ちゃん』になってしまったのだから。

 でも、寂しくてもそれが嫌だと思わなかったのは、自分も悟飯がかわいかったからだ。

 自分の分身のような悟飯を、チチは産み、育ててくれている。

 その姿を見ていると、無性に幸せな気持ちにもなったのだ。

 だからチチが悟飯にばかり構っても我慢できたのだ。

 それから自分の兄貴というヤツがやってきてからいろんなことがあって、それこそのんびりする時間など無くなった。

 入院してた頃は多少なりとチチと二人でのんびりする時間もあったが、それでも気ばかりが焦っていた。

 でも本当に夫婦二人っきりで、新婚のような濃密な時間を過ごしたのはあの時が最後だった。

 あの、セルとの闘いの前、悟飯を天界に預けた時……。

 あの時、どうしてもチチの傍を離れるなんてこと出来なかった。

 悟飯には悪いとは思ったが、どうしてもチチと二人っきりでいたかった。

 あの時が初めて、三人家族になってから初めてチチと自分の二人だけでいたいと思った。


 あの時もチチの膝枕で寝ていた。

 そして衝動のまま、チチを抱いた。

 二人っきりの世界は、まるで音の無い世界のようだった。

 でも時折聞こえるチチのか細い歌声が、本当は不安で堪らなかった自分の心に安らぎを与えてくれた。


 今も聞こえるチチの歌声。

 チチは自分に膝枕をしながら歌を歌っている。

 悟飯によく歌っていた子守唄。

 その歌声を聴いていると、どうしようもなく、微睡んできた。

 ……気持ちいいなぁ。

 そのまま、チチの膝と手の温もりを感じながら、その心地よい誘いに身を任せた。


 end
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