雨の日の唄

□雨の日の唄61〜90
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雨の日の唄82


「……ん……?」

 チチの膝枕があまりに気持ちよくて、そのまま微睡んでしまったらしい。

 ふとチチを見上げると、チチも自分の頭を膝に乗せたままウトウトしているようだった。

 いつもは自分を魅了してやまないその大きな黒い瞳も今は閉じられて、ふっくらとしたかわいい唇も少しだけ開いて小さな寝息を立てている。

 幾度となく見てきたチチの寝顔。

 結婚した当初はいつだって自分が先に熟睡して、起きるのもチチの方が早かったから、チチの寝顔なんて見たこともなかった。

 しかしチチを意識するようになり、ある時見てしまったチチの寝顔に胸の奥を掴まれたような衝撃を受けた。
 その胸の鼓動はチチを起してしまうのではないかと思うくらいに高鳴った。

 でもチチを初めて抱いたとき、チチの寝顔に初めて安らぎを覚えた。

 チチがこうして自分の隣にいることが、とても尊くて、そして幸せなことなのだと初めて実感した。

 長男がチチの膝枕で寝ている姿を見て、何だか寂しい気持ちにもなった。
  
 そこは自分の定位置だったのに……。

 そんな気持ちも少なからずあった。

 でもそれ以上に幸せだったのだ。

 自分はチチを得て自分の血を引く息子を得て、その自分の息子がチチの膝で幸せそうに眠っている姿を眺めることの充実感。

 チチの膝を抱え込むようにして眠る長男の姿を、二人で眺めて微笑み合った。

 髪を撫でるチチに倣い、自分も長男の頭を撫でた。

 こんな些細なことさえも幸せと思える幸せ。

 それが本当の幸せだった。

 強くなることも、強いヤツと闘うことも、自分にとっては幸せだ。

 でも一番の幸せは家族4人で、いつまでも一緒に仲良く暮らすこと。

 そして、息子たちにもそれぞれチチのような伴侶が出来て、家族がまた増えること。

 それが本当の幸せだ。

 チチの寝顔に誓う。

(もうオメエを離さねえよ)

 そう声に出さなくても、それに応えるようにチチが微笑んだように見えた。


 end
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