雨の日の唄

□雨の日の唄61〜90
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雨の日の唄87


 僕がビーデルさんを意識し始めたのはいつ頃からだったのか……。

 正直なところ、僕にもわからない。

 天下一武道会の前だったのか、最中だったのか、それともあのブウとの闘いの時だったのか、自分でもはっきりとはしない。

 だけど、ブウとの闘いの後には確実に他の誰とも違う存在にはなっていた。

 勉強をしていても時々ビーデルさんの顔が浮かんで、そして胸の奥が何だかギュッと掴まれたような感覚に陥った。

 家族と話していても、その名が出るだけで心臓が跳ねる。

 教室の隣の席が妙に気になって、この鼓動が聞こえてしまうのではないかと危惧してしまう。


 その感情が何なのか、僕にはすぐにわかった。

 僕はこの黒髪の少女に恋をしているんだと、すぐにわかったんだ。

 そのことに気付いてからは坂道を転がるようにこの想いは加速した。

 彼女の声が聞きたくて。
 彼女の笑顔が見たくて。
 
 だけど、どうしたらいいのかわからなくて。
 どうすべきなのかわからなくて。

 本当は今、こうして隣に座っているだけでも心臓が早鐘のように打つ。

 ちょっと視線をずらせば、彼女の顔が視界の隅に入るのに、それすら出来なくて……。

 この胸の鼓動が彼女に聞こえやしないかと、本当は心配でたまらない。

 
 でも。それでも。

 こうして彼女の隣にいることが、不思議と心地よく感じる。

 こうしていることが、何だかとても自然なことなんだと感じる。

 ドキドキするくせに心地よく感じるなんて、なんて二律背反な感情なんだろうと思う。

 それでも、そう思うのだから本当に不思議だ。

 やっぱり彼女は、僕にとっては特別な存在なんだと思った。


 家族とも、仲間とも違う、本当に特別な存在なんだ―。


 end
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