雨の日の唄
□雨の日の唄61〜90
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雨の日の唄89
隣に悟飯君がいるということが、こんなにも嬉しいと思える。
ついこの間、この地球は滅んだ……はずだった。
だけど、悟飯君のパパのお陰で地球のみんなは助かったけど、それでも一度は崩壊しているんだ。
もし何事も無ければ?
こうして普通に悟飯君の隣に座っていられることが、本当は些細なことかも知れないこんな何気ない日常が、実は何よりも大切だってこと、気付かずにいたかも知れない。
本当に些細なことが大事なこと。日々の日常が大切なことなんだ。
彼は私たちには想像も出来ない生活をしていたのだろう。少しばかり浮き世離れしていても、前ほど不思議では無くなった。
だって彼は私たちの知らないところで、いつも日々の日常を守るために戦っていた。
人知れず、それを公にもせず、ただ、この地球に住む私たちのために……。
でも、この平和な世の中が少しでも物足りないものだと、彼が思っていたら……?
こうして今穏やかに笑っている彼が、いつか刺激を求めて去ってしまったら……?
そんな不安に駆られたこともあった。
一度おばさんに聞いたことがある。
あれはおじさんが生き返ったすぐ後、パーティーに呼んで貰ったときのことだ。
『おばさん、悟飯君に聞いたんですけど、おじさん何度かいなくなってるって……その……不安じゃなかったですか?』
不安に決まってる。わかりきっている。だけどどうしても聞きたくなった。
『んだ。不安だったべ。でもな、風のようで一っ所で落ちつかねえ悟空さだけど、何があってもおらのところにだけは帰ってきてくれるんだ』
そして、おばさんは言った。
『だからおらも信じていられた。何があっても帰ってきてくれるって。いつかまた会えるって信じてたから、今までやってこれたんだけんど、まさかこんな形で帰ってくるとは思わなかったべ』
そして笑った。
でもおばさんの目は限りなく優しく、そして向こうで悟天君と同じ顔でお肉を頬張っているおじさんを見ていた。
そんなおばさんを見ているこっちがドキドキした。
『ビーデルさんも不安なんだべ? 悟飯がどっか行っちまうんじゃねえかって』
まさかおばさんに図星をつかれるなんて思っていなくて……あの時は顔がとっても熱く感じたけど……。
『大丈夫だべ。あの子は悟空さと似てるようで少し違う。悟空さが空のような人なら悟飯は地上にいる人間だべ。悟空さは地球を覆う空のように地球を守る人なら悟飯は大地のように……地上でおらたちを守ってくれる。そう思うんだべ』
少し苦笑した後、おばさんは続けた。
『昔は勝手におらの元から離れて行っちまったこともあったけんど、今は違う。ここで、地に足つけて生きてくって確信できるだよ』
『……なんで……そう言えるんですか?』
『ん? そうだなぁ……母親だから、だべな』
そう言って笑ったおばさんの顔を見ていると、少し鼻の奥が痛くなった。
私にはママはいないから、こんな風に自分の子供を信じていられる母親という存在に憧れた。
おばさんみたいなママが欲しい。悟飯君が羨ましい。
本気でそう思った。
……でもいつか、おばさんが本当の母親になったらいいな……なんて、少し思ったことは、誰にも言えない……。
end