雨の日の唄

□雨の日の唄61〜90
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雨の日の唄68


 瞬間移動でチチの元へ戻ると、チチは鼻歌交じりで洗い物をしていた。

 その後姿を眺める。

 今朝もこうして眺めていたけど、新婚の頃のような胸の高鳴りを覚えたのはあの時かも知れない。


 子供達がいなくて、チチと二人っきりで、いつも先に起きて朝食を作っているチチの後姿を眺めて……。

 新婚の頃と同じような状況なのだ。

 まるで心だけ、新婚のあの頃に戻ったような……そんな気分だ。


「何だべ悟空さ。帰ったら『ただいま』だって言ったでねえか?」

 こちらに背中を向けたまま言う。

「わかってたんか?」
「当たり前だべ? おらだって武道家の端くれだもの」

 チチはそう言って同じ姿勢で洗い物を続けている。

 ドキッとした。チチは気が読めないはずなのに……。だからこうやって眺めててもバレてはいないだろうと買いかぶっていた。

「それにな」

 チチは振り返り、

「悟空さの気配くらい、おらにはすぐにわかるだよ」

 そう言って柔らかく微笑んだ。

 その顔を見ると心臓がドクンと大きく鳴った。

「チチ……」
「何だべ?」

 ブルマに言われた事を言おうと思った。今、自分が思ってる事を。


「……あのな……オラ……またオメエが好きになった」
「え?」

 キョトンとするチチに近付き、その手をとる。

「ケッコンしたばっかの時みてえにさ、オメエを見てっとドキドキする。あん時の気持ちと一緒だ」

「悟空さ……」

 自分の突然の告白に、チチは少し驚いたようだったけど、すぐに微笑んで、

「……おらだって、悟空さが生き返ってからずっとドキドキしてるだよ。まるで娘っ子だったあの頃みてえだべ」

 頬を赤らめながらそう言うチチは、新婚の頃と全く変わってなどいない。

「チチ……」

 嬉しかった。チチも、自分と同じように感じていてくれていた事も、お互いに二度目に恋をした相手も初めて恋をした相手と同じだという事も。

 
 新婚のあの頃のようにチチをぎこちなく抱き寄せる。

 夕べもその前も、ずっとずっとこの腕に閉じ込めて離さなかった相手なのに、どうして今更のようにこんなにも緊張するのだろう?

 
 それでも、どんなに離れていても、自分が戻るのはここだけだと思わずにはいられなかった。

 ぎこちなく抱き締める自分と同じように、チチもまたぎこちなくその細い腕を自分の背中に回してくる。

 そして二人して、新婚のあの頃のように微笑み合った。


 end
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