雨の日の唄
□雨の日の唄91〜120
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雨の日の唄100
「あ、悟空? オレだけど」
『クリリンか?』
親友に電話をかけると、意外にも本人が電話に出た。
「お前、今日修行じゃねえの?」
『……ん? 今日はちょっとな』
えらく歯切れが悪い。何かあったのだろうか?
「お前が昼間っから修行もしないなんて……何か、あったのか?」
親友がこのような日中に家にいるなんてことはほとんどないはずだ。あの修行バカが修行しないなんて、何かあったに違いない。
『何もねえよ。それよりさ、何か用か?』
「え? あ、いや、何かお前に会いたくなってさ、暇ならこっち来ないか?」
『カメハウスか?』
「ああ、武天老師様も会いたがってるし」
そう言うと、親友は暫く考え込んで、
『……いや、今日はやめとく』
「用事でもあんのか?」
『そういうわけじゃねえけど……』
やっぱり歯切れが悪い。
「お前、やっぱり何かあったんじゃねえか?」
『何もねえって』
電話の向こうで親友が苦笑したのがわかった。
「……ならいいけどさ。てかお前、こんな時間に修行も行かないで家にいるって珍しいな?」
本当に不思議だ。日の出ている(出ていなくても)時間は必ずと言ってもいいほど修行に出ているのに。
『ん? まあな……てかクリリン……』
「なんだ?」
何となく、親友の声のトーンが下がったように思うのだが……気のせいか?
『……オメエ……オラがこの時間に家にいねえって思ってかけてきてんだよな?』
「ん? あ、まあ」
『てコトは……オメエもしかして……チチと話がしてえからかけてきたんじゃねえだろうな……?』
「はあっ!?」
何言ってるんだ? 何でそんな発想になるんだ? 自分にはかわいい妻も娘もいるのに。
「んなわけあるかっ!? たまたまだよっ!! マーロンが昼寝したから電話してみようって思っただけだよっ!! チチさんが出たって伝言しとくつもりだったし。それにオレには18号っていうかわいい奥さんがいるっての」
『チチのがかわいい』
「……」
間髪入れずに惚気る親友に自分は思わず絶句する。
「……てか……お前、ホントに悟空?」
『何言ってんだよ? クリリン。オラに決まってんだろ?』
電話の向こうでキョトンとしながら言っているだろうことはわかった。
……でもこれは本当に親友なのか……?
どう考えても親友とは思えない発言。
「……じゃあ、明日は? 家族みんなで来てくれよ」
本来明日のつもりで誘ったんだし、本当に親友なのか、この目で確かめたい気もした。
『明日もダメだ。子供たちもブルマんトコでキャンプっちゅーのでいねえし』
……子供たちがいない……?
てコトは……
「……悟空、お前……もしかして……」
『ん?』
「……チチさんと二人っきりでイチャイチャしたいから……?」
まさかなぁ〜と思いながらも思い切って聞いてみたら……
『あたりめえじゃねえか? こんなチャンス滅多にねえんだぞ? いっつも悟天がくっついててさぁ。全然チチとイチャイチャ出来やしねえ』
「……」
『悟飯のときはここまで困んなかったんだけどな〜』
とても親友とは思えないセリフが聞こえてくる。
これは夢か? 夢なのか?
『なぁ? オメエ、18号とイチャイチャしてえとき、どうしてる?』
止めの一言。
すると電話の向こうから親友の妻が親友を咎める叫び声が聞こえた。
もしかして、自分たちが知らなかっただけで、実は親友夫婦って意外とラブラブなんじゃないのか?
昔の親友からはとても想像できない光景だけれど、自分たちが見ていなかっただけで本当はこれが普通なのかも知れない。
いつもガミガミと親友を怒っている(ように見えた)妻と、それに肩を竦めて頭を掻きながら『すまねえ』と平謝りの夫。
今思えば、それでもどことなく幸せそうに見えたのは気のせいではなくて、本当に幸せだったからこそ、見ている自分も結婚に憧れたんだ。
電話の向こうでいつものように『すまねえすまねえ』と謝っている親友の声が聞こえる。
これがあの夫婦の幸せなのかもな。
そんなことを考えながら、電話の向こうの親友夫婦の仲のいい夫婦喧嘩を苦笑しながら聞いていた。
end